松下秀雄(まつした・ひでお) 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長
1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。22年9月から山口総局長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「若者と政治」に転機が訪れた
教育らしい教育を受けられていないと訴える声も相次いだ。
「授業料を払っていますが、一回も学校に行けていません」
「授業はレポートばかり。図書館も使えず、本を遠慮なく買える人しか、ちゃんとレポートを書けません。体育大学の人に話を聞くと、実技ができないので『ゴルフについてのイメージを書いてください』みたいな授業になっている」
野党の学生支援法案は、▽大学に授業料の半額免除を求め、そのための費用を上限つきで国が補助する▽アルバイトなどの収入が減った学生に最大20万円を支給する――ことが柱だ。それじたい、学生の要望を踏まえて練ったものだが、次々に寄せられる声から、法案では想定していなかった問題も浮かんだ。
たとえば、「最後の手段は休学ですが、私の大学は休学費が90万円もかかります。そのために退学を検討している学生がいます」。野党議員は「法案とは別個に、大至急、勉強してとりくみます」と引き取った。
政治を突き動かし、流れをつくったのは学生たち。中でも大きな役割を果たしたのが「高等教育無償化プロジェクトFREE」である。
FREEは緊急事態宣言発令後の4月9日から、コロナが学生生活に及ぼしている影響についてインターネット調査を開始。21日までに回答した514人のうち「13人に1人」が退学を検討していると発表した。27日までに回答した1200人ぶんの2次集計では「5人に1人」に深刻化していた。この調査結果は国会でも幾度となくとりあげられ、放ってはおけない問題だという理解が広がった。
日本記者クラブは5月1日に、この問題で動くふたつの学生グループの代表の記者会見を催した。そのひとりがFREE代表で東京大学4年の岩崎詩都香さん(21)だ。Zoomを通じたオンライン会見で、岩崎さんはこう話した。
「いまのコロナ禍によって学生が突然困窮している印象をおもちの方もいるかもしれませんが、そうではありません。