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コロナ禍から浮かぶ、民主主義と「学費」の関係(下)

若者と日本を救うのは恒久的な減額だ

松下秀雄 「論座」編集長

過ちの始まりは「受益者負担論」

 1970年代に引き上げが始まるとき、理由とされたひとつが「受益者負担論」だった。

 過ちの始まりは、ここではなかったか。本人の利益になるのは事実としても、社会全体の利益になることを無視しているからだ。

 私は以前、「高等教育無償化プロジェクトFREE」のメンバーにインタビューしたことがある(朝日新聞社の月刊誌「Journarism」3月号と「論座」に掲載)。そのとき、FREEの白石桃佳さん(22)はこういっていた。

インタビューに応じるFREEの白石桃佳さん=2020年1月20日、東京都中央区拡大インタビューに応じるFREEの白石桃佳さん=2020年1月20日、東京都中央区

 「受益者負担だ、だから家庭で学費を賄うんだという風潮があるけれど、高等教育は社会にとって必要なもの。これだけ世の中が発展すると、高校までの学びじゃ足りない。だからこそ、ほかの先進国でもどんどん進学率が上がっている」

 山岸さんもこう指摘する。

 「高い学費を認めていると、専門的な職業、とくに今回、新型コロナで治療にあたっているお医者さんや看護師さんの数が減っていく」

 学費を払えないから、高等教育を受けられない。受けられたとしても、学費のためにアルバイトに追われ、学ぶ時間がない(いまどきアルバイトの掛け持ちはあたりまえらしい。1日にいくつものアルバイトを掛け持ちし、家計を支えている高校生にあったことがある)。

 公費を惜しみ、そんな若者を量産してきたことが、日本を衰退させた原因ではないのか? だから、社会を支えきれなくなっているのではないのか?

 ただでさえ減っている若者の才能を生かさないなんて、もったいないにもほどがある。

「飲み会もできない」が自粛の苦しさ?

 さらに高額な学費は、民主主義をゆがめてしまう。

 ここではふたつの側面から、民主主義への影響を考えてみたい。

 第一に、高等教育がぜいたく品なら、それを買える豊かな家庭の人が、もっぱら政治や行政を担うことになりやすい。政治家や官僚の属性が偏ることは、好ましくない結果を生む。

 コロナ禍のもとで起きたことを振り返ると、あれもこれも、属性の偏りのせいに思えてくる。

安倍晋三首相のツイッターに、2020年4月12日に投稿された動画拡大安倍晋三首相のツイッターに、2020年4月12日に投稿された動画

 たとえば、外出自粛を促そうと、ミュージシャンの星野源さんの「うちで踊ろう」に乗って、安倍晋三首相がSNSに投稿した動画の件だ。首相は犬を抱き、読書をしていた。「友達と会えない。飲み会もできない。ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています」という言葉が添えられていた。

 首相が想像する自粛の苦しさって、飲み会ができないことだったのか……。

 ふうっ~とため息をつきながら、あの環境にいればそうなるだろうなと納得もした。だって、暮らしに行き詰まっている人や、退学に追い込まれそうな人が、首相の身のまわりにどれほどいるだろうか。多感な子どもや青年のころ、追い詰められた人たちと接してきただろうか。

 もちろん、話には聞いているだろう。でも、それだけではピンとこない。体が動き出さない。首相のまわりもそんな人たちだらけだとすれば、支援が小粒の出し遅れになるのも無理からぬことに思える。

 まあ、あんまり他人のことをいえた義理じゃない。私自身、人の痛みに思いが至らない鈍感さをたっぷりと抱えている。

 だからこそ思うのだ。政治にも、行政にも、メディアにも、この社会に生きる多様な人がいなければならない。豊かな家庭に育った人もそうではない人も。老いも若きも。男性も女性も。障がいのある人もない人も。国籍をもつ人ももたない人も。

 それができていない日本の宿痾を、コロナという危機が暴きだした。そう思えてならないのである。

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筆者

松下秀雄

松下秀雄(まつした・ひでお) 「論座」編集長

1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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