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新型コロナ意識調査があぶり出した自粛を求める世論の構造と打撃の実態

トップは今こそ国民を安心させる前向きなメッセージを発せよ

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

緊急事態宣言の39県解除について記者会見する安倍晋三首相=2020年5月14日午後6時1分、首相官邸

 緊急事態宣言の延長により、日本で見込まれている失業者はおよそ70万人に及びます。70万人の人が、生活のよりどころを失い、その家族が不安に晒され、そして彼らが生み出してきた生産活動が失われました。

 対して、新型コロナウイルスの感染者数は非常に低い水準で推移しています。現在、報告されている感染者数は約16,000人、死者は600人強です。報道によれば、東京では1~3月期に超過死亡(例年を上回る死者数のこと)は存在していません。仮に日本赤十字社が献血の血液に行った抗体検査結果が正しかったとすれば、新型コロナウイルスによる東京での致死率は約0.26%です。

新型コロナウイルスに関する意識調査を実施

 実は、日本では毎年120万人が亡くなっています。現代社会がどれだけそこから目を背けようとしても、死は私たちにとって隣り合わせの存在であることに変わりはありません。

 私たちは新型コロナを前にして、いったい何を恐れ、何を求め、どのような方向へと社会を導こうとしているのでしょうか。それを考えようと、私の主宰するシンクタンク・株式会社山猫総合研究所はこのほど、一般財団法人・創発プラットフォームと共同で、新型コロナウイルスに関する意識調査を行いました()。

:調査は株式会社日経リサーチに実施を委託。2020年4月27~28日に全国の18歳以上の男女を対象に実施し、2098サンプル(データクリーニング後)を収集。

 新型コロナウイルスをめぐる意識調査はこれまで、いくつか行われています。働き方の変化やストレス度などをめぐる興味深い調査もあります。この調査の狙いは、これまで明らかにされてこなかった、いったい誰が自粛を求め、誰がその打撃を受けているのかということを明らかにすることでした。本稿では、調査から見えきたことについて、広く共有したいと思います。

テレビを見る人ほど健康不安が増大

 客観的には、日本の新型コロナ被害は世界に類を見ないほど少ないのですが、コロナ対策に伴って経済や社会が被っている被害となると話は変わってきます。それは、政府も経済主体も世論を恐れて立ちすくんでいるからであり、国民が非常に強い健康不安に覆われてしまっているからです。

 本意識調査では、回答者の9割近くの人が、新型コロナウイルスに対して、自らの健康への懸念を抱えていると答えました(グラフ1)。くわえて、テレビを毎日視聴している人ほど、この健康不安は増大する傾向にあります(グラフ2)。新型コロナウイルスをめぐる政治やメディアの報道が危機感を煽り、国民の間に実態とはかけ離れたリスク感覚を根付かせてしまった様子がうかがえます。

グラフ1

グラフ2

経済活動を止めることへの同意は各世代に共通

 目を引くのは、新型コロナウイルスによる重症化のリスクは年代によって圧倒的に異なるにもかかわらず、年齢による不安の差は大きくないことです(グラフ3)。これは、人びとが抱える不安が科学的事実に基づくものではなく、それとは別の何かで植え付けられてしまった恐怖に基づく、ある種の心情的なものであることを示唆していると言えるでしょう。

グラフ3

 感染拡大防止・自粛と経済のバランスについてきくと(グラフ4)、30代で経済重視がやや強くでるものの、基本的に拡大防止・自粛が多数で、世代間の差はあまり見られません。

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