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司法への「官邸独裁」、検察まで抱き込もうとする安倍政権

憲法学者がいない…これでいいのか日本の最高裁判所

伊藤千尋 国際ジャーナリスト

弁護士会が開いたシンポジウムのチラシに載った日本、コスタリカ、ドイツ、韓国の最高裁判所と憲法裁判所

日本の司法の危機

 安倍政権による検事長の定年延長問題は、国会での検察庁法改正の動きへと発展し、検察組織と政権の在り方が問われた。

 この機会に、最高裁判所を頂点とした日本の裁判所の組織、さらには日本の司法界の状況について、海外の目から問題を提起したい。

検察庁法改正案の今国会での成立断念について取材に応じる安倍晋三首相=2020年5月18日、首相官邸
検察庁=東京都千代田区霞が関

コスタリカの民主主義、子どもにも根付く

 日本と同じく平和憲法を持つ中米コスタリカは、この憲法の理想を単に掲げるだけでなく、本当に軍隊をなくした。

 この国では、小学校低学年から分厚いイラスト入りの冊子の教材で民主主義について教育し、小学生が憲法違反の訴訟を起こすほど憲法や法律に対する国民の関心が高い。立憲主義が根付いており、民主主義の成熟度の高さを感じさせる。

コスタリカで民主主義教育を進める選挙最高裁判所が作成した小学生向けの教材。イラスト満載の冊子が7冊とボックスに入ったカードもある
 コロナ禍では、1人の感染者が発覚してから10日後、死者が1人もいない段階で国家非常事態を宣言し学校を閉鎖する一方、医学博士でもある保健相が自ら、感染状況や予防の注意を日々細かく呼びかけた。

 休業で仕事をなくした人に向こう3カ月の生活費を給付するなど、国民の生活を重視した手厚い政策を続けている。このため、政府への国民の信頼が厚い。

 この1月、私は首都サンホセの憲法裁判所を訪れた。最高裁判所の中の憲法判断を扱う部門だ。

コスタリカの憲法裁判所=2019年1月26日、筆者撮影

ガラス張りの憲法裁判所

コスタリカ憲法裁判所の合議室=2020年1月23日、筆者撮影
 コスタリカの憲法裁判所は、以前は最高裁の建物の中にあったが、違憲訴訟が年間約2万件に膨らんだため、独立した建物となった。下町の一角にあり、全面が明るいガラス張りだ。裁判所というよりIT関係のビルを思わせる。入ってすぐ左は違憲訴訟の窓口で、訴えに来た市民に係官が対応している。

 4階の合議室に通された。憲法裁判所の判事7人が向き合う楕円形のテーブルがある。判事が座る椅子に座って、広報担当者から話を聞いた。

提訴は無料、予約も訴状も不要

コスタリカ憲法裁判所のフェルナンド・カスティジョ長官=2020年1月23日、筆者撮影
 この裁判所は、来る者は誰も拒まない。ホームレスでも外国人でも直接、予約なしに訴えることができる。弁護士の付き添いもいらないし、訴状を用意する必要もない。しかも無料だ。国政の憲法違反から個人の人権侵害まで、憲法に違反していると思った市民が気軽に訴えに来る。

 憲法裁の裁判官のトップにいるフェルナンド・カスティジョ長官も顔を出し、「人権が常に保護されているようにするのが私たちの仕事です」と気さくに語った。

 コスタリカの対極にあるのが、権力側を向き、国民に門を閉ざすようにも見える日本の最高裁判所だ。

過去180人、憲法学者はたった1人

 昨年11月に埼玉弁護士会が主催して、「これでいいのか最高裁!?」というシンポジウムが、さいたま市浦和区で開かれた。

 コスタリカ、ドイツ、韓国と日本を比較して、最高裁の在り方をさぐる企画だ。パネリストは私のほか2人。元裁判官で『絶望の裁判所』の著書がある明治大学法科大学院教授の瀬木比呂志氏と、中央大学教授(憲法専攻)で衆院憲法調査会参考人の畑尻剛氏だ。

最高裁判所の大法廷=東京都千代田区隼町最高裁判所の大法廷=東京都千代田区隼町
 畑尻氏が、日本の最高裁の裁判官の構成を説明した。15人のうち6人が職業裁判官、3人が弁護士、2人が検事、2人が官僚、2人が大学教授の出身という枠があるという。

 ここで、驚くべきデータが示された。1947年に現在の憲法下で最高裁が発足してから、最高裁の判事は180人を数える。うち教授出身は14人だが、その中で憲法学者はわずか1人しかいなかった。憲法違反を審議するのに、180人の中で憲法学者が、たった1人だけだという。それは

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