もっともに聞こえるが、壁は少なくないし、さまざまな制度変更も必要
2020年05月22日
新型コロナウイルス感染症の拡大による学校休校への対策として注目を集めているのが、学校の入学と始業時期を9月に変更する「9月入学」だ。安倍晋三首相も5月14日の記者会見で、「拙速な議論は避けないといけない。しっかり深く議論したい」としながら、「9月入学」を「有力な選択肢の一つだ。前広に検討していきたい」と述べている。
日本だけでなく、世界的に「新型コロナ問題」の前後で社会の仕組みやあり方が根本的に変化することが予測されている。これまで幾度か提案されながら実現しなかった「9月入学」の議論に注目が集まることは、日本の社会の新しい姿を生み出すことになるだろうか。
本稿では、「9月入学」の利点として挙げられていることのうち、日本への留学生が増える、あるいは日本人が海外留学しやすくなることで、大学教育が国際化しグローバルな人材の育成に寄与するという主張について考えてみたい。
2013年以来、筆者は大学学部や大学院での留学生教育に従事してきた。現任校でも交換留学生向けの教育プログラムの開発や運営を行うとともに、海外の協定校との交流や新規の提携校の開拓などにも携わっている。「提携校からの留学生をどのように増やすか」「留学生をどのように送り出すか」は、筆者にとって一貫して重要な課題であった。
それだけに、「9月入学」の利点として、必ずといっていいほど「海外留学の拡大」という点が挙げられると、本当にそうなのか気になって仕方がなかった。
「G7では米英仏伊加が原則9月入学、独も原則8月入学」
「G20で4月入学は日本とインドだけ」
こうした指摘を見ると、大学で「9月入学」を導入すれば、日本の高校を卒業した後に外国の大学に直接進学したり、大学2年生以降に進級とともに外国の大学の正規課程に留学することが容易になるようにみえなくもない。
しかし、制度上は高校と大学の接続や学年の連続性が保たれるものの、実際には“設計図”どおりの結果が得られるか、心許ない要因は少なくない。
以下、具体的にみていこう。
昨年9月、所属先と交換留学生の派遣の協定を結んでいる大学が開催した「留学フェア」に参加するため、筆者はニューヨークにいた。
「留学フェア」は1日のみの開催であったものの、留学を希望する学生、留学先の大学の詳細を知りたい学生が集まり、各国から参加した約30の大学や機関の説明を受けていた。
筆者も自分が勤務する大学について、100人近い学部学生や大学院生に紹介したり、様々な質問に答えたりした。
質問の中で最も多かったのは「学費はいくらか」であり、「奨学金はあるのか」、「学生寮はあるのか」、「留学生が履修できる授業はどのようなものか」といった問いが続いた。
しかし、「日本の大学は毎年4月から始まるため、われわれの大学では毎年4月と9月に交換留学生の受け入れを行っている」という説明に対しては、参加者から不満や懸念の声はなかった。
むしろ、「単位の互換や読み替えが出来るなら、学年の最後の3、4カ月、日本に留学して、帰国後に進級することができる」といった、「4月入学」を前向きにとらえる意見が寄せられたものだ。
もちろん、こうした意見は一つの大学の100人程度という母集団から得られたものでしかない。また交換留学を前提としているため、私費留学を含めた留学全般に対する考えでもない。そのため、これらの学生の声を一般化することは慎む必要がある。
ただ、それでも、「9月入学」と「海外からの留学生の増加」という項目の間には、必ずしも密接な結びつきはない可能性が推察されないか。
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