コロナ対策で浮上した「9月入学」は「留学生の増加」につながるか
もっともに聞こえるが、壁は少なくないし、さまざまな制度変更も必要
鈴村裕輔 名城大学外国語学部准教授
新型コロナウイルス感染症の拡大による学校休校への対策として注目を集めているのが、学校の入学と始業時期を9月に変更する「9月入学」だ。安倍晋三首相も5月14日の記者会見で、「拙速な議論は避けないといけない。しっかり深く議論したい」としながら、「9月入学」を「有力な選択肢の一つだ。前広に検討していきたい」と述べている。
日本だけでなく、世界的に「新型コロナ問題」の前後で社会の仕組みやあり方が根本的に変化することが予測されている。これまで幾度か提案されながら実現しなかった「9月入学」の議論に注目が集まることは、日本の社会の新しい姿を生み出すことになるだろうか。
本稿では、「9月入学」の利点として挙げられていることのうち、日本への留学生が増える、あるいは日本人が海外留学しやすくなることで、大学教育が国際化しグローバルな人材の育成に寄与するという主張について考えてみたい。

自民党の秋季入学制度検討ワーキングチームの役員会で挨拶する柴山昌彦座長(中央)。左は岸田文雄政調会長=2020年5月12日、東京都千代田区の自民党本部
「9月入学で留学生は増える」という主張は本当か
2013年以来、筆者は大学学部や大学院での留学生教育に従事してきた。現任校でも交換留学生向けの教育プログラムの開発や運営を行うとともに、海外の協定校との交流や新規の提携校の開拓などにも携わっている。「提携校からの留学生をどのように増やすか」「留学生をどのように送り出すか」は、筆者にとって一貫して重要な課題であった。
それだけに、「9月入学」の利点として、必ずといっていいほど「海外留学の拡大」という点が挙げられると、本当にそうなのか気になって仕方がなかった。
「G7では米英仏伊加が原則9月入学、独も原則8月入学」
「G20で4月入学は日本とインドだけ」
こうした指摘を見ると、大学で「9月入学」を導入すれば、日本の高校を卒業した後に外国の大学に直接進学したり、大学2年生以降に進級とともに外国の大学の正規課程に留学することが容易になるようにみえなくもない。
しかし、制度上は高校と大学の接続や学年の連続性が保たれるものの、実際には“設計図”どおりの結果が得られるか、心許ない要因は少なくない。
以下、具体的にみていこう。