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黒川氏を巡る検察人事の不始末で世論は政権から離反

膨れあがったツイッターへの批判的投稿。メディアの世論調査でも支持率が下落

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 強力な“文春砲”が炸裂(さくれつ)して、検察庁の人事問題が丸ごと吹っ飛んでしまった。

 新型コロナウイルスの感染状況に世間が注目する一方で、このところ世論の関心を集めていた検察庁法改正案問題。渦中の人物である黒川弘務・東京高検検事長が「週刊文春」のスクープを受けて5月21日に辞職願いを提出。政府は何ら調査もせず、22日の持ち回り閣議で辞職を承認した。

 今や問題は、どうして黒川氏を罷免(ひめん)しないのか、6000万円を超える退職期をなぜ払うのかといった、次元に移っている。賭け麻雀という“賭博行為”が常習化していた黒川氏を法的にどう追及するのか。東京高検のトップをつとめ、次期検事総長にも擬された人だからといって放免するわけにはいかない。むしろ、厳しい対応を世論は求めるだろう。

 23日に毎日新聞と社会調査研究センターが実施した全国世論の世論調査では早速、世論の厳しい怒りが表れた。なんと安倍晋三内閣の支持率が27%に下落、不支持率が64%まで跳ね上がったのである。今月6日には支持率40%、不支持率45%だから、異様な落ち込みだ。

 さらに23、24の両日おこなわれた朝日新聞の世論調査でも、内閣支持率が29%、不支持率が52%で、第2次安倍政権が発足して以来、最低となった。

車から降りて無言で自宅に入る黒川弘務検事長=2020年5月21日午後6時44分、東京都目黒区

コロナとの闘いのさなかに何をしていたのか

 今回、検察庁人事問題が表沙汰になったのは1月31日のこと。安倍晋三内閣は突然、黒川検事長の定年を半年間延長することを閣議決定した。

 2月7日の誕生日に63歳の定年を迎える黒川氏が8月7日まで半年間続投できるように、法解釈を変更してまでして“ゴリ押し”したのである。これについては、すでに2月19日の論座記事「検察人事に待った!奇怪な黒川東京高検検事長の定年延長」で厳しく批判した。

 私がこの閣議決定に重大な関心を持ったのは、時が時だったからだ。

 1月の閣議決定から、検察庁法改正法案の今国会での成立を期するまでほぼ4カ月。日本はコロナとの闘いのまっただ中にあった。検察庁問題が振り出しに戻ったいま、この大事な時期にいったい何をしていたのかと腹立たしくもなる。

 実は閣議決定の前日の1月30日は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、対応が遅れていたWHO(世界保健機関)がようやく非常事態宣言を発出した日であった。朝のニュースでそのことが伝えられているまさにその時に、日本では政府が一検事の定年延長を決めていた。また、中国の湖北・浙江省などの一部地域からの入国を禁止したのも、その日の臨時閣議であった。

 われわれ日本国民にとって、この4カ月は何であったのかと考えさせられる。政権は全く余計なことをしていたと、その時間とエネルギーとを惜しまずにはいられない。

疑惑・疑念を生んだ森雅子法相の説明

 この奇妙な閣議決定について、当時、森雅子法相は「重大かつ複雑、困難な事件の捜査・公判に対応するため」と説明した。この説明が、さらに多くの疑惑や疑念を生むことになった。

 多くの人が、「重大かつ複雑、困難な事件」はいわゆるモリカケ問題(森友・加計学園問題)、「桜を見る会」問題、カジノ汚職問題、そして広島の河井克行・案里議員夫妻の選挙違反問題と受け止めた。政権がこれらの問題を切り抜けるためには、黒川氏の存在が不可欠なんだろうと考えたのだ。

 ① コロナ感染の重大局面で、②法解釈を変更までして、③森法相が語る説明にもなっていない理由で横車を押す。こうした流れに、当然のことながら世論は何かよくないことが進行しているとの疑いを強めた。

 そこで政府は、これを正当化しようと検察庁法の改正まで断行しようとした。ここに至って、それまでそれぞれの立場で批判をしてい人たちが、一斉に立ち上がったのである。「#検察庁法改正案に抗議します」というツイッターへの投稿が瞬く間に膨れあがり、1000万を越したという。信じがたい数字である。

民意と手を組んだ検察の良心

 深刻なのは、政権の側がこうした事態を理解できなかったことだ。12日の朝日新聞は、政府高官が「組織的な大量投稿が可能だとして」、『民意』ではないと語ったと報じている。

 民意も読めない人が、なんど政権中枢を占めているのだ

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