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安倍政権の検察庁法改正断念の背景にある保守の知恵の喪失という病理

少数の反対意見を吸収するのは道徳ではなく極めてリアルな政治の知恵だ

曽我豪 朝日新聞編集委員(政治担当)

拡大検察庁法改正案の今国会での成立断念に関して取材に応じる安倍晋三首相=2020年5月18日、首相官邸

 国会はデジタルではない。

 一かゼロか、イエスかノーか、そんなデジタルな発想から、数によって法案の行方が決まるのであれば、選挙で議席が確定した時点で、すべてが定まってしまうだろう。だがそうはならないのが、議会制民主主義に基づく政党政治の面白さであり妙味である。

 与野党の論争により法案の問題点が浮き彫りにされ、世論の批判や怒りが高まれば、どんな強固な政権であれ、簡単には強行など出来なくなる。戦後政治の歴史がそれを実証する。

警職法改正案廃案に追い込まれた岸信介首相

拡大警職法改正に関する政府声明を発表する岸信介首相=1958年10月27日
 安倍晋三首相の祖父・岸信介首相にとっては警職法(警察官職務執行法)改正案がそうだった。

 岸政権は1958(昭和33)年5月の衆院選で大勝、絶対多数の安定基盤を得た。そこで岸首相が本願の日米安保改定に向け、同年秋の臨時国会に提出したのが、警察官の警告や制止、立ち入りを強化する警職法改正案だった。

 だが、戦前・戦中の特高警察の記憶が鮮明に残るなか、社会党や労組の反対運動は一気に大衆化する。政権は会期延長で採決強行を狙うが、自民党内にさえ慎重論が台頭して結局、岸首相は審議未了・廃案を余儀なくされた。


筆者

曽我豪

曽我豪(そが・たけし) 朝日新聞編集委員(政治担当)

1962年生まれ。三重県出身。1985年、東大法卒、朝日新聞入社。熊本支局、西部本社社会部を経て89年政治部。総理番、平河ク・梶山幹事長番、野党ク・民社党担当、文部、建設・国土、労働省など担当。94年、週刊朝日。 オウム事件、阪神大震災、など。テリー伊藤氏の架空政治小説を担当(後に「永田町風雲録」として出版)。97年、政治部 金融国会で「政策新人類」を造語。2000年、月刊誌「論座」副編集長。01年 政治部 小泉政権誕生に遭遇。05年、政治部デスク。07年、編集局編集委員(政治担当)。11年、政治部長。14年、編集委員(政治担当)。15年 東大客員教授

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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