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安倍政権の検察庁法改正断念の背景にある保守の知恵の喪失という病理

少数の反対意見を吸収するのは道徳ではなく極めてリアルな政治の知恵だ

曽我豪 朝日新聞編集委員(政治担当)

長期政権が繰り返す奢りという過ち

 選挙で大勝したが故の政権の奢(おご)りが、かえって世論の動向に対するセンサー機能を失わせるのだろうか、長期政権は時にその過ちを繰り返す。

 佐藤栄作政権は、衆院選で歴史的な大勝を遂げて自民党総裁4選を果たし、まさに本願の沖縄返還を成就させた直後、いわば花道になるはずの72年の国会で法案が通らなくなった。福田赳夫、田中角栄による後継者レースが先行して急速に政権は求心力を失い、健康保険法改正案と国鉄運賃値上げ法案の二つが廃案に追い込まれた。それは佐藤が首相辞任を決意する直接の要因ともなった。

 中曽根康弘政権も86年の「死んだふり解散」による衆参同日選で大勝、自民党総裁任期の1年延長を手にした直後、売上税導入を図ろうとして頓挫する。選挙でやらないと首相自身が明言した大型間接税の導入を意味するそれに対して「公約違反だ」との批判が、現実の世論調査や地方選挙の結果に現れ、自民党内にも反対論が噴出。首相は売上税法案の成立断念を受け入れるよりほかなかった。

 安倍晋三政権が今回、国家公務員法と検察庁法の改正案の廃案に追い込まれたのもまた、長期政権の奢りや、ネットを含めた国民世論の批判の高まりの結果である点において、権力者が陥りやすい政治的感度の喪失を物語るものであろう。

 ただ、その根底には、さらに深い病理があるように思う。それは、かつて国民政党と言われた自民党が確実に有していた保守の懐深い知恵が失われていたことの論理的帰結ではなかったか。

拡大検察庁法改正案の今国会での成立は断念された=2020年5月18日、東京・永田町

安倍政権が本当になくしたものは

 なくして初めて、人はかけがえのないものは何だったかを知るという。

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筆者

曽我豪

曽我豪(そが・たけし) 朝日新聞編集委員(政治担当)

1962年生まれ。三重県出身。1985年、東大法卒、朝日新聞入社。熊本支局、西部本社社会部を経て89年政治部。総理番、平河ク・梶山幹事長番、野党ク・民社党担当、文部、建設・国土、労働省など担当。94年、週刊朝日。 オウム事件、阪神大震災、など。テリー伊藤氏の架空政治小説を担当(後に「永田町風雲録」として出版)。97年、政治部 金融国会で「政策新人類」を造語。2000年、月刊誌「論座」副編集長。01年 政治部 小泉政権誕生に遭遇。05年、政治部デスク。07年、編集局編集委員(政治担当)。11年、政治部長。14年、編集委員(政治担当)。15年 東大客員教授

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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