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安倍政権の執着が招いた黒川元検事長人事騒動の本質

権力についての見識と自制心を欠く安倍政権の現実

星浩 政治ジャーナリスト

官邸の意向をすり抜けるために

 官邸と各省庁との駆け引きが繰り広げられるが、なかにはしたたかに官邸の意向をすり抜ける役所もある。例えば財務省。事務次官にたどり着くのは、多くの場合、官房長、主計局長経験者。早い段階で次官コースを固めて、政治の介入を弱めようという手法だ。

 それでも安倍政権は、森友問題の国会答弁で「交渉記録はない」などと言い続けた佐川宣寿理財局長を国税庁長官に抜擢する人事に踏み込んでいる。官僚の政策立案力より「国会答弁で安倍首相を守った」という点が重視された人事だった。

 外務省の幹部人事でも、事務次官の交代を求めたり、安倍首相の秘書官経験者を主要局長に押し込んだりしてきた。ある外相経験者は「官邸の執拗な要求に悩まされた」とこぼしている。

拡大関西3府県の緊急事態宣言解除と東京高検の黒川弘務検事長の辞職に関して取材に応じる安倍晋三首相=2020年5月21日午後6時8分、首相官邸

長官人事で内閣法制局を「制圧」

 安倍政権の矛先は、これまで「中立」とみられてきた組織の人事にも向かった。2013年、安倍首相は集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈の変更と関連法案の作成に着手。それまで集団的自衛権は憲法9条に反するという見解を維持してきた内閣法制局との対応が注目された。

 内閣法制局は、政府の憲法や法律の解釈を担い、「憲法の番人」とも言われてきた。法制局長官は法務省、財務省、総務省などの出身者が交代で務め、政治とは距離を置いた機関と位置付けられてきた。

 集団的自衛権をめぐって、安倍首相には二つの選択肢があった。一つは内閣法制局を理論的に説き伏せ、解釈を「合憲」に変更させること。もう一つは法制局長官を集団的自衛権合憲論者に交代させることだった。安倍氏は後者を選択。集団的自衛権行使=合憲を唱える小松一郎駐フランス大使を法制局長官に起用した。

 小松氏は外務省条約局長などを経験。外務省出身者の法制局長官就任は極めて異例だった。これによって、内閣法制局は「制圧」され、憲法解釈は変更された。集団的自衛権の行使を容認する安全保障法制は国会に提出され、反対する野党を押し切って可決、成立した。

黒川氏定年延長の強引な理屈

 黒川氏の人事の底流には、官邸と官僚とのこうした力関係の変化がある。

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筆者

星浩

星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト

1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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