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安倍「おべっか」外交はトランプに通用したのか?

第7部「ドナルド・シンゾウ―蜜月関係の実像」(1)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

トランプタワーに馳せ参じた安倍首相

 複数の日本政府関係者によれば、日本の官邸の首相執務室では11月の大統領選の投開票日前、安倍氏のもとで複数回にわたって選挙分析が行われ、クリントン氏、トランプ氏のどちらが勝利しても、安倍氏がその勝利者と就任前に会談するというシナリオが練られていたという。会談日程は、11月中旬のペルーで行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の機会を利用して米国を訪問することが検討された。

 ただし、ここで問題が浮上する。クリントン氏との会談は何ら問題ないが、トランプ氏については選挙期間中、移民排斥や女性蔑視などの過激な言動を繰り返していたため、政権内では就任前の会談に慎重論があったという。トランプ氏と会談するかどうかの判断については安倍氏に一任され、最終的に安倍氏が「思い切りの良い判断」(日本政府関係者)をして、トランプ氏との会談を決めたという。

 大統領選の大勢が判明すると、佐々江賢一郎・駐米大使(当時)がトランプ氏の娘婿のジャレッド・クシュナー氏(現大統領上級顧問)にすぐさま電話し、ニューヨークのトランプ・タワーにおける安倍、トランプ両氏の会談がセットされた。

 安倍氏が政権内の慎重論を抑えてトランプ氏との会談に踏み切った決断の背景には、冒頭のトランプ氏のデモイン演説に見られるように、トランプ氏が選挙期間中に、在日米軍の駐留経費を日本が増やさなければ米軍撤退もありうる、などと過激な日本批判を繰り返していたことがあった。トランプ氏が30年近く前の古びた対日観をもったまま就任すれば、日米同盟を根底からひっくり返しかねないという怖さがあった。

 安倍氏ら日本側としてはトランプ氏となるべく早く接触することで個人的に親密な関係を築き、現代の「強固な日米同盟」という概念を、政治の素人であるトランプ氏の頭の中にすり込もうという狙いがあったとみられる。

 一方、トランプ氏にとっても、外国首脳がわざわざニューヨークの自宅まで来て会談するのは好都合だった。外国首脳の多くはトランプ氏との会談に二の足を踏み、トランプ・タワーの目の前でもトランプ氏の就任に反対するデモが起きていた。そんな中、同盟国・日本の首相が真っ先に会談を申し込んできたことに「トランプ陣営の人々は日本側の申し出に非常に感謝した」(日本政府関係者)という。

 トランプ陣営側としては、安倍氏との会談によって、トランプ氏の大統領選当選の正当性を内外に示すことができ、同氏の権威づけにプラスに働くという思惑があったとみられる。

 安倍氏は2016年11月17日、トランプ次期大統領と外国首脳としては初めて会談する。トランプ氏の趣味がゴルフであることからゴルフクラブを贈呈し、トランプ氏は返礼としてゴルフシャツなどのゴルフグッズを贈った。トランプ氏は安倍氏の訪問を大いに喜び、このニューヨーク会談をきっかけに安倍氏とトランプ氏の蜜月と言われる関係が始まった。

 安倍、トランプ両氏の個人的な関係をめぐっては、安倍氏が一方的にトランプ氏にお世辞を言うのではなく、トランプ氏の方も安倍氏を気に入っているのは間違いないようだ。トランプ氏が安倍氏の名前に言及する際には、「マイ・フレンド」とつけ加えることが多い。

 知日派の重鎮、リチャード・アーミテージ元国務副長官は、安倍氏のトランプ氏の扱い方について「だれよりも上手だ」と語り、「日本の友人」から聞いた話としてこんなエピソードを披露した(リチャード・アーミテージ氏へのインタビュー取材。2019年10月22日)。

 「トランプ氏がかなりバカなことを言ったとき、安倍氏は静かに上品に(トランプ氏の間違いを)訂正するそうだ。例えば、トランプ氏が『日本はもっと(米軍駐留経費負担を)支払わなければいけない。そうしなければ、我々は横須賀から米艦船を撤収させるかもしれない』と言ったとき、安倍氏は『それは米国の判断です。しかし、サンディエゴに米艦船を駐留させれば、その経費は横須賀に駐留させるよりも4倍は必要になりますよ』というふうに。安倍氏はトランプ氏に挑戦的なものの言い方はせずに、トランプ氏の言うデータが正しいかどうかを確認させるという方法をとっているそうだ」

拡大インタビューに応じるリチャード・アーミテージ元国務副長官=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年10月22日

 安倍氏はトランプ氏の自尊心が極めて強いことを意識しており、首脳外交の場ではトランプ氏のメンツをつぶして怒らせないようにと細心の注意を払った言葉遣いをしていることがわかる。

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筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

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