第7部「ドナルド・シンゾウ―蜜月関係の実像」(2)
2020年06月10日
安倍晋三首相は2016年11月、大統領就任前のトランプ氏と外国首脳としては初めてニューヨークで会談して以来、ゴルフ外交を含めて頻繁に首脳会談を重ねてきた。しかし、1980年代から「日本は米国を利用し続けてきた」と考えるトランプ氏は日本に対しても追及の手を緩める様子はない。日米貿易交渉では対日貿易赤字の削減を迫り、米国製武器を購入するように求め、米国の失われた富を取り戻そうとする。アメリカ・ファーストを訴えるトランプ氏のもとで国際社会のリーダー役を放棄しつつある米国と、経済・軍事的に台頭著しい中国に挟まれる格好の日本。蜜月と言われる「ドナルド・シンゾウ」関係のもとでの日米関係の実像に迫る。
「ドナルド・シンゾウ」関係で目立つのが、日本が米国から武器を大量に購入しているという点である。とくに最新鋭ステルス戦闘機F35については当初、42機の導入計画だったが、2018年12月に105機もの追加調達を閣議了解し、147機体制とすることを決めた。取得費に維持費などを加えると総額6.7兆円のコストが見込まれている。
2019年10日10日、朝日新聞は米ロッキード・マーチン社からF35の生産拠点であるテキサス州フォートワースの工場の取材を許可された。工場内は機密情報の塊であるため、事前にセキュリティークリアランス(秘密取扱者適格性確認)を得るのに30日間を要し、工場内の写真撮影ポイントは1カ所に限定されたうえ、撮影写真も機密情報が写り込んでいないかチェックを受けるという徹底ぶりだった。
工場内に入ると、巨大な空間に圧倒される。工場内の端から端までの距離は約1マイル(1.6キロ)。そこには、最終組み立て段階のF35がずらりと並ぶ。ゴルフカートの行き交う工場内で作業員たちは忙しく動き回り、活気に満ちていた。
工場内をゴルフカートに乗って移動すると、機体の前には米国、韓国、ノルウェー、オーストラリアなど納入先を示す各国の旗が記載されたパネルが置かれていた。F35は計3359機が製造され予定で、日本を含め13カ国に導入されることになっている。日本の導入する147機は米国に次いで2番目に多い機数となっている。
日本の国旗のパネルがあったのは翼部分の部品だ。日本では三菱重工業小牧南工場(愛知県)がF35の最終組み立て・検査工場となっているため、これらの部品は同工場へ輸送され、そこで組み立てられるという。
「とても簡単に離陸でき、飛行することができる。私はジョークで『私のおばあちゃんだって操縦できる』と言っているんだ」
工場に併設された滑走路のそばで、F35のテスト操縦士、ロバート・ウォレス氏は笑顔を見せながら語った(ロバート・ウォレス氏へのインタビュー取材。2019年10月10日)。米空軍で20年以上、F15などの操縦経験をもつベテランだ。
F35はレーダーに映りにくく、敵に気づかれにくいステルス性に優れた「第5世代」と呼ばれる戦闘機だ。コンピューターによる情報統合で、操縦士のかぶる専用ヘルメットには機体を透かして360度周囲を見通すことができるディスプレーも装備。ウォレス氏はF35を「空飛ぶアンテナ」と評し、「戦闘空間を探知しながら飛行し、収集したすべての電子データを操縦士の前のディスプレーに情報として表示される」と語る。
さらにデータリンクのシステムでほかの仲間の機体の情報も共有できるという。ウォレス氏によれば、操縦士にとって空中戦は戦闘空間の正確な把握が最も重要であり、「戦闘空間をいち早く把握し、的確な判断を下して行動した方が敵に勝つ」。ゆえにF35は「革命的」な戦闘機だという。
ただ、米国内でF35のメリットばかりが語られているわけではない。
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