松下秀雄(まつした・ひでお) 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長
1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。22年9月から山口総局長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「権力による、権力のための改憲」を招く、その構造とは
憲法改正の手続きをさだめる国民投票法の改正案に対して、ツイッター上で「#国民投票法改正案に抗議します」というハッシュタグが急速に拡散し、一時、トレンドの1位になった。自民・公明両党が、今国会での成立をめざす方針を確認したことが伝えられたためだ。
私はつい最近まで、主に改憲手続きを担当する編集委員(平たくいえばシニアの記者)を務め、いまもこの問題をフォローしている。報道各社をみわたしても、これを専門とする記者はほとんどいないはずだ。だから、さんざん考えた結果を言っておかなければならないと思い、筆をとっている。
どう考えても、この改憲手続きは問題がありすぎる。しばしばテレビCMの問題がとりあげられるけれど、決してそれだけじゃない。
このルールのもとで改憲を進めれば、よほど慎み深い政権与党でない限り、「権力による、権力のための改憲」になるおそれが大だ。安倍政権に、その慎みを期待できるだろうか。
どういうことか。説明していこう。
日本の改憲ルールの本質的問題に進む前に、与党が成立を急いでいる改正案に触れておきたい。
これは、ショッピングセンターなどに共通投票所を設けられるようにすることをはじめ、有権者が投票しやすくするための改正案だ。選挙ではすでにできるようになっており、これじたいはどうってことのない内容だ。野党も異論は唱えていない。
けれど、「不要」ではなくても、絵に描いたような「不急」の改正なのだ。国民投票の実施が決まってから改正しても、何の問題もない。それなのに与党側は、本質的な問題に手をつけないまま、ここだけ取り出して改正を急いでいる。もしも「この改正で改憲手続きは整った」とみなし、改憲へと見切り発車するなら、ろくでもないことになる。
しかも、いまこの時期である。
コロナ対策に全力を傾注するべきなのに、国民を守るための対策があれもこれも手遅れになっているのに、ドサクサにまぎれて何をやろうとしているのか――。そんな憤りを招くのは当然のこと。民意を置き去りにする政治の姿勢が問われているのである。