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「日米同盟基軸」でも他国にヘッジをかける日本

第7部「ドナルド・シンゾウ―蜜月関係の実像」(4)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

中距離ミサイル日本配備の可能性

 米中対立の激化は、日本の安全保障に大きな影響を与えている。とくに大きな影響が出るとみられているのが、米国が中距離ミサイルを日本国内に配備する可能性だ。

 トランプ大統領は2018年10月、冷戦時代に米国と旧ソ連が結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する方針を表明した。米側は近年、ロシアが条約で禁止された兵器の開発を行って条約を破っていると不満を募らせるとともに、条約に加わっていない中国が自由に開発を続けていることを問題視していた。

 米国はINFから離脱したことで、条約で禁止されていた地上配備型中距離ミサイルの開発を進めている。米政権内で具体的に検討されているのが、中国の増強する中距離ミサイルに対抗し、核を搭載していない地上配備型中距離ミサイルをアジア太平洋地域に配備する計画だ。

 候補地には地理的に中国に近い日本の在日米軍基地も含まれる。ただし、実際に中距離ミサイルが在日米軍基地に配備されれば、日本は米中衝突の最前線になりかねないというリスクを抱え込むことになる。

 安全保障問題に詳しい米ランド研究所のジェフリー・ホーナン研究員は仮に日本に中距離ミサイルが配備された場合、中国やロシア、北朝鮮への抑止力として機能するという見方を示す。一方で、「日本から発射されたミサイルは15~20分以内で(相手国に)着弾するため、日本は即座に狙われる標的となる。米国と中国などとの間で偶発的衝突が起きれば、日本も巻き込まれることになる」とも指摘する(ジェフリー・ホーナン氏へのインタビュー取材。2019年1月29日)。

 「日本はこれまで米国が世界各地の紛争にかかわる際、横須賀から米空母が派遣されるなど、目立たない形で関与してきた。しかし、今度は日本国内から中距離ミサイルが直接発射されるわけであり、中国などはこれに対抗手段を講じる可能性がある」

 ホーナン氏は、日本政府としてはこうしたリスクを踏まえたうえで米側の提案を受け入れるかどうか慎重に判断するべきだ、と提案する。

 「米国が中距離ミサイルを日本に配備することで『果たして日本の安全保障は強化されるのか、それとも弱体化するのか』という疑問が出てくるだろう。日本の政策決定者たちはこうした問題について注意深く検証する必要がある」


筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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