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問われる最高裁の判断 「国際慣習法」で在日米軍訴訟を門前払いの是非

在日米軍関連訴訟で最大、原告約2万2千人の沖縄・嘉手納基地爆音訴訟めぐり

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

「そんな国際法あるのか」論争

 第3次訴訟は2011年に日本政府、12年に米政府を相手にそれぞれ起こされた。住民ら原告側の弁護団によると、09年成立の「対外国民事裁判権法」による初めての対米訴訟だという。

 在日米軍の話からいったんそれるが、対外国民事裁判権法ができた背景には経済のグローバル化がある。

 かつては、国家は外国の裁判権から免除される(外国法が適用されない)という考えが国際社会に強かったが、国境を越える経済活動が活発になると、自国の企業と取引などをする別の国家に自国の民事裁判権を免除しない(外国法を適用する)必要が出てきた。

 そこで2004年に国連で、外国に対する民事裁判権の免除の範囲に関する「国連国家免除条約」が採択された。日本は07年にこの条約に署名し、対応する国内法として対外国民事裁判権法を作ったのだ。

拡大米ニューヨークの国連本部=2017年。藤田撮影

 この法律は、外国による日本国内での行為で何らかの損害が生じた場合(第10条)や、外国が日本国内に持つ不動産(第11条)について「(日本の)裁判権から免除されない」と定めている。

 住民らはそこを頼りに、米国の施設である在日米軍の嘉手納基地から生じる騒音による住民の健康への被害について、米政府を相手に日本で裁判を起こせるはずだとして、いま第3次訴訟を争っているのだ。

 ところが、一、二審で日本の裁判所が持ち出したのがこの法律の第3条、「この法律の規定は、条約又は確立された国際法規に基づき外国等が享有する特権又は免除に影響を及ぼすものではない」だった。

 つまり第3条は、すでに明文の条約や、明文化されていなくても「確立された国際法規」、つまり多くの国が国際的なルールと考え、それに沿って行動している「国際慣習法」によって外国に対する裁判権が免除されている(自国の国内法が適用できない)分野があれば、そこにこの法律は及ばないとしている。

 2017年2月の一審判決は、この第3条が示す、外国に対する裁判権がなおも免除されている分野として、「受け入れ国の同意に基づき同国に駐留する外国の軍隊の主権的な行為につき裁判権免除を与えるという限度で国際慣習法が存在することは明らか」と判断した。

拡大第3次嘉手納爆音訴訟で住民らが米政府を訴えた一審の判決文より。却下の理由として上から2~3行目に「国際慣習法が存在することは明らか」

 その上で、在日米軍が嘉手納基地を使う行為はそれにあたるから、「国際慣習法上、被告(米政府)に裁判権が免除されている」とし、対外国民事裁判権法による住民らの訴えを却下。2019年9月の二審判決も同じ理由で棄却した。

 ただ、判決自体が示すように、「受け入れ国の同意に基づき同国に駐留する外国の軍隊の主権的な行為につき裁判権免除を与える」というルールは、上記の2004年採択の国連国家免除条約を含め、明文の国際条約にはない。判決の根拠は「国際慣習法」だ。

 そして、まさに「そんな国際法が本当にあるのか」、つまり多くの国が国際的なルールと考え、それに沿って行動している国際慣習法がこの分野にあるのかが、いま最高裁の判断を待つ第3次嘉手納爆音訴訟の焦点になっている。

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筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)

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