メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

自然の中にいるヒトとウイルス

ウイルスが我々に問いかけているもの(4) 資本主義の在り方

花田吉隆 元防衛大学校教授

緊急事態宣言解除から一夜明け、東京メトロ東西線西船橋駅で東京方面行きの電車を待つ人たち=2020年5月26日、千葉県船橋市、西畑志朗撮影

 資本主義は効率を追求する。しかし、資本主義はそれだけでいいか。ウイルスはそのことをも我々に問いかけている。

 資本主義では、市場の参加者は利潤を追求する。利潤最大化を目指す結果として、市場はグローバル大に拡大し、そのことはコロナ後も変わることはない。世界はさらに緊密化し、我々の生活空間はますます狭隘化していく。

 これまで、利潤を追い求める個人の活動は「プラス評価」の対象であり、それこそが人類の不断の発展の源とされた。確かにそれは事実だった。特に近代化以降、その発展は目を見張る。様々な道具が発明され、その道具を動かすエネルギーが発掘され、そのエネルギーと道具が我々に多大な恩恵をもたらした。GDPは加速度的に増大し、それに伴い人口もまた加速度的に増加した。この100年のグラフを、それ以前と比べればその差は歴然だ。人類は実にこの100年、飛躍的な発展を遂げた。

 この発展は今後さらに続く。産業革命は今や、第四次に到達し、情報革命が世界を一層緊密化すべく結合のスピードを速めている。以前、人々の活動には地理的障害があった。今、ITが、この障害を克服する。ネットを通し情報が瞬時に伝わる。ニューヨークの株式市場の情報は瞬時に他の市場に伝わり、互いが互いに影響を与える。サプライチェーンは世界中に張り巡らされ、最も利潤が上がるところで適当量だけが生産される。以前、生産は国内だけで完結した。今、工場は世界中に散らばり、最も賃金が安いところで労働者が雇用され、それぞれが最適量だけ生産し、従って、無駄な在庫を抱えることはない。

 効率化を求める資本主義の歩みは、したがって、今後も絶えることなく進む。我々の未来は、さらに快適で便利になると信じられてきた。しかしそれは本当か。

産業化が生み出した温暖化

 温暖化は、そういう純粋無垢なバラ色の見方を否定する。そもそも、温暖化は産業化が生み出した。地中から鉱物を掘り出し、燃やしてエネルギーを得る。それを動力として道具を動かしモノを生産する。そういうモデルが行き着いた先が温暖化だ。化石燃料を燃やしすぎて地球が温まってしまった。そういうことはこれまで考える必要はなかった。人がいくら燃料を燃やしたところで、温度上昇はたかが知れている。出る排気ガスは空気中に吸い込まれ、しばらくすれば元の青空が広がる。人類の活動は自然の力に比べれば取るに足らないものだ。人は、自然の猛威に立ち向かわねばならない、これを克服しなければならない。近代化は、その営みのことだった。自然は大きな大人のごとくであって、我々小さな子供はこれに全力で向かっていっても自然はびくともしない。大人である自然は、子供である我々を受け止めてくれ、その努力に報いてくれる。近代化の過程でその考えが揺らぐことはなかった。

 1970年代、公害が社会問題になった。工場から排出される煤煙は、それまで青空のかなたに吸い込まれ消えていくものだったが、産業化が進むにつれ、それでは済まないことが分かってきた。煤煙が人々に健康被害をもたらす。川に流した水銀が、よもや病気の原因になるとは誰も考えなかった。人々の活動の結果が自然の処理能力を超え始めた。

 温暖化は、これが地球大に広がる中で生まれた。よもや人々の経済活動が、地球全体を温め、それが気温上昇を生み、海面を持ち上げ、氷河を溶かし、異常気象を巻き起こし、台風被害を甚大化するなど、誰が考えただろう。自然は我々の力が及ばない大人だった。今、人はその大人をぐらつかせるまでになった。人と自然との関係式が変わりつつある。これまでは「自然>人」だった。今、「自然≧人」に近づきつつある。

 そういう時、資本主義はどうあるべきか。

ゆがんだ企業行動は本来の資本主義の在り方か?

 近年、企業行動のゆがみが指摘される。経営者が株主のほうばかり見る。その結果、ROE(自己資本利益率)が重視され、これが高いことが利益を上げていることだという。株価が重要で、株価上昇のためには、自社株買いも辞さない。しかし、自社株買いとは、必要資金を設備投資に回さず株価上昇に使うということだ。企業の将来体力は低下していかざるを得ない。近年のレバレッジ経営も問題で、企業が借り入れを増やすことにより、自己資本比率が低下、企業の資本が薄くなり、コロナのような予想しない困難に直面した時、もはやこれを乗り切る体力すら残ってない。こういう企業行動は本来の資本主義の在り方か。資本主義は本来どうあるべきなのか。

 ESGはその問いに対する一つの答えだ(拙稿「資本主義と環境の危機は克服できるか」参照)。資本主義は、効率や利潤だけを追い求めてはならない。シェアホルダー(株主)の利益だけでなく、全てのステイクホルダー(利害関係者)の利益を最大にすることを考えなければならない。ESG、すなわち、E(環境)、S(社会)、G(企業統治)への目配りが重要だ。

 背景に、

・・・ログインして読む
(残り:約1734文字/本文:約3866文字)