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コロナと米国が悪化させる経済に中国はどう対応するか?

中国の全人代で目立った「人民ファースト」政策と米国の圧力が落とす影

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

 5月22日、予定より2カ月遅れの全人代(全国人民代表会議)が北京で始まった。建国100周年の2049年に向けた大国建設の柱を見せた昨年とは大きく変わって、コロナを理由に中国が直面する危機と、それへの対応に腐心している点が滲み出ているのが大きな特徴だろう。本稿ではそれについて取り上げる。メディアが注目する香港への国家安全法導入については次稿に譲りたい。

拡大long8614/shutterstock.com

習主席の「人民ファースト」発言が意味するもの

 今回、全人代冒頭における李克強首相の1時間余に及ぶ演説(政府工作報告)は従来にもまして人民を意識するものだったと言えるが、それ以上に目を引いたのは、 中国人民への配慮を鮮明にした習近平・国家主席の22日午後の発言だった。習主席は、コロナの発祥地とされる湖北省に最高の医師を中国全土から集めたのは「人民ファースト」だからと述べたのだ。

 そもそも、中国の歴代皇帝や国家主席は、国家経営の大きなスローガンを語るのが常であり、こうした表現を使うことは異例である。もっといえば、全人代で経済担当の首相が冒頭の演説で話したことを、主席がその後の分科会の場で新しい明確な言葉を使って説明するのも、筆者の知る限り初めてだ。

 習主席は24日にも、湖北省の代表団との会談の中で、彼らの努力とともに湖北省に集まった有志達を称えた。これには、致死率が高いと言われた高齢者である80歳代の3千人(回復者の最高齢は108歳)を回復させた医師団への称賛も含まれていた。彼はまた、この対応を「生活ファースト」とも語っている。

 他の閣僚もコロナに関連する具体的な発表と議論を行った。「中国製造2025」の基本方針のひとつである「低賃金の労働力密集型経済をAIやロボットの導入で技術密集型/知識集約型経済に変換する」について、コロナによっていよいよ「待ったなし」の状況になったことも強調された。

 習政権としては、3月31日の「論座」の拙稿「新型コロナは終息?「その後」に向けて動き始めた中国の実情」にも書いた通り、来年の中国共産党建党100周年にはCovid-19パンデミックからの完全回復を成し遂げたうえで、盛大なパレードを催したいところだ。一方で、武漢封鎖解除から1カ月半がたち、人民の側にも感染症・経済復興対策の実質的な果実を手にしたいといった言動が増えてもいる。

 そうした人民への対応が、トランプ大統領のセリフを借りたような「人民ファースト」という表現だったのである。国家建設のために人民があるのではなく、人民があって初めて国家があるのだということを暗示することで、自分達がどこを見ているかを強調する意思があったのだ。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

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