【6】ナショナリズム ドイツとは何か/ニュルンベルク⑤ プロパガンダの跡
2020年06月25日
ドイツで独裁政権を握ったナチスが、1930年代に党大会を繰り返した古都ニュルンベルク。その遺構の「議事堂」に今世紀になって市が設けたナチス党大会記録センターを、2月10日に訪ねた時の話を続ける。
展示に携わるマルチナ・クリストマイヤー博士(46)は、「若者を敏感化していきたい」と話した。聞き慣れない「敏感化」の意味を問うと、こう語り出した。
「若者の考えには教育だけでなく、政治や家庭、メディアが大きく影響します。だから、ネオナチ的に『外国人出ていけ』と考える生徒が2時間ここを見ただけで、もうやめますとはならない。それでも、考えるきっかけを与えたいんです」
クリストマイヤーさんの話は、後で展示を見て腑に落ちた。例えば常設展「魅惑と恐怖」の最初の部屋での、この一帯のナチスの遺構を紹介する映像だ。
若い男女が軽快な音楽に乗り、スケボーで神殿跡のような石畳を走っている。石灰岩でできた白いスタンドの中ほどのところに、黒い扉がある。入ってみると、天井にナチスの「かぎ十字」を連ねた金色の模様が広がる。その広間から階段を上って別の扉から外のスタンドへ戻ると、ヒトラーが十数万の群衆を前に訴えた演壇があった。
この映像の舞台は、「議事堂」近くにある別の遺構、ツェペリン・フィールドに面したグランド・スタンド内にある「黄金の間」だ。ナチスが党大会のゲスト用に造ったこのホールを私は直前に訪れ、ナチスのプロパガンダへの執念を感じたものだが、それに対してこの映像には、現在の若者にその過去への関心を持ってほしいというセンターの熱意を感じた。
フランスから見学に来た高校生たちがその映像を眺めていた。フランス語を話すガイドに案内され、めいめいがスマホをかざして写真を撮りながらながら次の展示へ向かう。引率していた歴史の教師のマッサー・ドミニクさん(58)に聞くと、「生徒たちが教室だけでなく現場で学べることはとても大切です」と話した。
センターでは、党大会でのヒトラーを美化しドイツ各地の学校で流された当時の映画をあえて教材にするワークショップも開いている。「ネオナチ」と呼ばれる団体の発信や動きも追うよう努めており、
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