コロナ禍の時代、デジタル革命迎えた日本の市民運動
2020年05月30日
検察庁法をめぐる安倍政権の強硬な姿勢を止めたのは、一般市民が発信した洪水のような量のツイッターだった。世界の歴史を動かす市民の力は、インターネットを使う時代に入って久しい。日本も、SNSなどネットを通したバーチャルの抗議活動が、本格的に政治状況を動かす時代に入った。
市民の素朴な声や問題意識が、ネットと組み合わさることで別次元の力を発揮する。前世紀から、世界の各地で時代を切り開いてきた出来事を振り返り、この度の日本での「ツイッターデモ」を考えてみたい。
安部政権は今回、閣議だけで検事長の定年を延長し、国会で検察庁法を変えて追認しようとした。コロナ禍の対策に全力を挙げるべきときに、自らの権力基盤の強化を目指す「不要不急」な行為だと野党は抵抗した。政権はいつものように数で押し切ろうとしたが、その意図をくじいたのは市民の力だ。
これまでのような、街頭を埋めたリアルのデモや集会ではない。1000万を超えたと言われるツイッターの声である。かつて1960年の安保闘争の時代に、当時の岸信介首相は、「声なき声」という言葉で世論が自分を支持していると強弁したが、今や市民はインターネットにより具体的な「声」で応じた。
俳優の小泉今日子さんや歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんら多くの著名人が賛同したこともあり、瞬く間に数百万件となり、投稿数の多い「トレンド」の第1位になった。その後も新たに「#検察庁法改正案を廃案に」のツイートが投稿され、「ツイッターデモ」の継続が提起された。
国会前で展開した抗議の市民も、手にしたプラカードや横断幕に「#検察庁法改正案に抗議します」の文字を掲げた。
コロナ禍にあって、直接、人が集まることが難しいソーシャルディスタンスの時代に、オンラインを通して広く民意を集める新しいデモの形が生まれたといえる。
こうした動きが強気一本やりだった安倍政権の態勢内部を付き崩し、今国会での法案成立の断念をもたらした。政府は当初、「世論のうねりは感じない」(政府高官)と冷ややかだったが、世論調査で内閣の支持率が急落したのを見て公に事態を認め、態度を一変させた。
きっかけは、2010年にチュニジアで起きたジャスミン革命だ。警官から暴行を受けて抗議の焼身自殺をした青年の映像がフェイスブックで流れ、ネット上で抗議が拡大。怒った市民が暴動を起こし、23年続いたベンアリ長期独裁政権が倒れた。
その動きは周辺の国にも飛び火し、2011年には地域大国のエジプトで30年続いたムバラク長期独裁政権を、さらにリビアでも42年続いたカダフィ独裁政権を倒した。
警官が女子学生に催眠スプレーをかけた映像がユーチューブに流れてから人々の注目が広がり、カナダから発信されたツイッターの呼びかけをきっかけに大きなうねりとなった。「金持ちは1%、われわれは99%」と富の不公平さを主張し、社会格差の是正を求めた。
同じ米国で、2018年には、フロリダ州の高校での銃乱射事件で生き残った高校生が銃規制の運動に立ち上がった。全米各地の若者が「#EnoughIsEnough(もうたくさんだ)」のハッシュタグをつけてSNSでメッセージを発信し、首都ワシントンの目抜き通りを80万人が埋め尽くす抗議デモに発展した。
米国のこれらの運動は、それぞれの根本解決には至らなかったが、広く問題を提起することには成功した。
豊かにみえる社会にも虐げられた弱者が多数存在し、いざとなればSNSを通じて連携して立ち上がることを見せつけた。
その力が同年の下院議員選挙でニューヨーク州に史上最年少の女性議員を生み、さらに今回の大統領選挙で、サンダース候補の健闘を支える力となって現れたと評価されている。
韓国でも、国家を動かした民主化運動は、ネットを通して力を得た。
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