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戦後75年。沖縄戦を知らない若者に歴史をどう引き継ぐか(下)

語り以外の方法で沖縄戦のリアリティーを担保する方法が必要に

山本章子 琉球大学准教授

 戦争体験者が少なくなった戦後75年である2020年。体験の語りに耳を傾けること以外の方法で、沖縄戦を知らない世代が戦争の記憶を引き継いでいくには、どうすればよいのか。

 「戦後75年。沖縄戦を知らない若者に歴史をどう引き継ぐか(上)」では、沖縄での日常生活や勤務先の授業をまじえて沖縄戦の記憶をたどる散策をしてきた。「下」でもひきつづき、戦跡を巡りながら、戦後世代が沖縄戦を学ぶときに何が起こるのか、何ができるのかを考えてみたい。

浦添~映画『ハクソー・リッジ』の舞台

拡大浦添市の「ハクソー・リッジ」=2020年5月25日(久留宮航輝撮影)

 2016年に米国で公開された映画『ハクソー・リッジ』は、前田高地の戦いと呼ばれる、沖縄戦中に浦添城一帯で展開された日米両軍の戦いに参加した、衛生兵デズモンド・ドスが主人公だ。「ハクソー・リッジ(のこぎり崖)」とは、前田高地の切り立った崖に対する米軍側の呼称。敬虔なクリスチャンであるメル・ギブソン監督は、軍隊生活や戦場にあっても信仰上の戒律を守り通す主人公を造形することで、ヒューマニティを描き出している。

 主人公を演じるのは、『アメイジング・スパイダーマン』主演のアンドリュー・ガーフィールド。ひ弱な設定のドスは、自分より大きい米兵を肩に担いで全力疾走したり、ロープで険しい崖の下に降ろしたり、飛んできた手榴弾を素手で打ち返したりする。

 そんなアメイジング衛生兵が活躍する映画の、最も熱心なファンが在沖海兵隊だ。海兵隊基地内の映画館は、『ハクソー・リッジ』を日本公開前から繰り返し上映。鑑賞した海兵隊員たちは、教官に連れられての研修だけではなく、プライベートでも映画の舞台を訪れる。

 かつての戦場は現在、浦添城跡として整備されており、普天間飛行場と嘉数高台公園が見える「ハクソー・リッジ」頂上には、ベンチも設置されている。海兵隊員の巡礼の地となってから、戦いについての日英両文の説明書きも設置された。

拡大浦添市による説明の看板=2020年5月25日(久留宮航輝撮影)
 2020年1月初旬に放送されたNHKの番組「ブラタモリ」で、浦添ようどれ(琉球王国時代の王の墓)が紹介されてから、この場所を訪れる日本人観光客が増えた。だが、浦添ようどれからさらに坂道を5分ほど上って、「ハクソー・リッジ」まで足を伸ばす人はなかなかいないようだ。

 実のところ、前田高地の戦いは、映画の日本公開まで地元でもそれほど有名ではなかった。だが、嘉数を突破した米軍は、前田高地を制しなければ日本軍の司令部がある首里を攻撃できないという点で、前田高地の戦いは沖縄戦全体の趨勢と関わっていた。

 前田高地では、日本軍が「ハクソー・リッジ」の頂上で待ち伏せ、崖をよじのぼってきた米軍に機関銃で攻撃を浴びせる。米軍は進軍と同時に、日本軍陣地と思われる場所への砲撃や空爆を行ったが、日本軍は丘陵内に張りめぐらせた洞窟とトンネルにこもって耐えた。戦いは約10日間に及び、約3000人の日本兵が死亡した。

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筆者

山本章子

山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授

1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。

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