メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

金融支配をめざす中国の正念場

塩原俊彦 高知大学准教授

 米国に代わって中国が覇権を握る日は近づいているのか。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる世界の政治・経済・文化まで含めた全体としての潮流に変化が起きていることが中国の覇権確立を早めるのか。

 こうした疑問にこたえるには、これまで米国に大きく差をつけられてきた金融分野での中国の存在感の相対的拡大がカギを握っている。

二つの地殻変動

 The Economistは2020年5月9日号で、「地政学と技術が米国の金融支配を脅威にさらす」との問題意識をもつ特集を組んだ。2008年のリーマンショック後の2009年から2020年4月20日時点の時価総額でみた銀行30傑の本社所在国別シェアを示した図1をみてほしい。米国の銀行は長く世界で優位を誇ってきたが、比較的安定的な中国の銀行が相対的に存在感を増していることがわかる。

拡大図1 時価総額でみた銀行30傑の国別シェアの推移(単位:兆ドル)
(出所)https://www.economist.com/special-report/2020/05/07/geopolitics-and-technology-threaten-americas-financial-dominance

 それでも、国際金融秩序は米国、英国、オーストラリア、カナダ、日本、西欧の銀行および国際通貨基金(IMF)や世界銀行が中心となって保たれてきたから、中国だけでは国際金融秩序そのものを改変させる影響力にこれまでは欠けていた。コロナ禍の世界で金融秩序が守られたのは、2020年3月、米連邦準備理事会(FRB)が主要国の中央銀行と結んでいたドル・スワップ協定に基づく資金供給の実施にあったことを知る者として言えば、米国の金融覇権は中国をいまでも圧倒している。

 だが、国際金融をめぐる地政学と技術にまつわる二つの地殻変動が中国の金融覇権確立への道程を短縮しつつあるのはたしかなようだ。

 第一の地殻変動は、2001年9月11日の同時テロ以降、貿易などに支障となりかねない金融制裁を米国主導で課しはじめたことで、地政学上の要因が国際金融に直接関連するようになったことに関係している。制裁対象企業への銀行融資が禁止されたことも国際金融に打撃を与えた。

 テロ組織や犯罪組織だけでなく、核兵器開発にかかわるイランや北朝鮮、さらに、クリミア併合に対するロシアへの制裁は、結果として銀行間の国際金融取引にかかわるコンピューター・通信回線利用のネットワークシステム(SWIFT)からの締め出しというかたちで痛手につながる。

 実際に、2012年3月、EU理事会はSWIFTからのイランの金融機関の排除を指令した。その後、2015年7月にイランと米英独仏中ロ間で結ばれた合意(包括的共同行動計画)によってイランのSWIFT復帰が認められた

 ロシアに対しても、英国やポーランドからSWIFTからの排除圧力がかかった。このため、ロシア政府はSWIFTからの離脱に備えて、独自の送金システム(System for Transfer of Financial Messages, SPES)を開発し、2015年から利用を開始、2018年までにロシアの403社が利用するようになっている。中国もSWIFTに対抗する外国との銀行間支払システム(Cross-Border Inter-Bank Payments System, CIPS)の運用を2015年10月からスタートした。元による国際通貨決済の拡大をねらっており、現在、950ほどの組織が利用している(対するSWIFTのメンバー数は1万1000)。

 COVID-19によってこうした地政学上の地殻変動はより重大な局面を迎えている。各国が緊急時の対応として、医療などにかかわるサプライチェーンのグローバル化に疑問を呈するようになり、自国優先のナショナリズムが高まっているからだ。中ロはCOVID-19の対応をめぐる世界保健機関(WHO)の不手際などで対立を深めている(「国際機関は権力闘争の場 WHOは「CHO」?」参照)。

 対外債務負担の大きい中・低開発国のなかには、既存のIMFなどに支援を求める動きがある半面、近年、「一帯一路イニシアチブ」(BRI)の実現のために周辺国やアフリカ諸国などに融資を急増させてきた中国はいまこそ、その影響力を拡大しようとしている。米国経済の低迷がつづけば、米国自体の対外債務の返済能力が疑われかねない。中国も欧米諸国で高まる対中警戒感から、その経済復興が進まなければ対外支援による覇権拡大が難しくなる。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

塩原俊彦の記事

もっと見る