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ロボットに「電子人」という法的地位を認めるか

自然人や企業などにしか法的人格を認めてこなかった歴史が大きく変わろうとしている

塩原俊彦 高知大学准教授

 欧州議会法務委員会よって2016年5月31日付で公表された、ロボット向けのルールづくりのための報告草案のなかで、将来の課題として、ロボット向けの特定の法的地位の創出が提案された。それが、「電子人」(electronic persons)である。草案は、少なくとももっとも精巧な自律ロボットが特別の権利・義務を備えた電子人の地位をもつように、また、ロボットが賢明な自律的決定をくだしたり、あるいは、独立して第三者と相互作用したりする場合に、電子人格を適用するように求めている。2017年1月の報告書にも、ほぼ同じ内容が書かれている。

 電子人への法的地位の付与をめぐっては、すぐに14カ国のAI専門家らがこれに反対する公開書簡を2018年になって公表した。①ロボットが尊厳の権利、その高潔さの権利、市民権といった人権をもつというのは、人権保護と矛盾する、②法人の背後には、法人を代表し方向づける人間の存在があったからであり、自律型ロボットにはあてはまらない――などの反対理由があげられている。

 核燃料で動く「鉄腕アトム」、子守用ロボット「ドラえもん」のような自律的ロボットはそう簡単にできそうもない。ゆえに、電子人という法的人格が広く認められるのはずっと先の未来ということになるのだろうか。

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ふしぎな「法人」

 そもそも人間以外の「法人」なるものに法的地位が与えられるようになった経緯はどうだったのか。

 ヴィザ・クルキ著『法的人格理論』(オックスフォード大学出版、2019年)によれば、この問題は、ローマ教皇・インノケンティウス4世が13世紀に、破門することができない虚構性をもつ修道院のような「コーポレーション」を教会法のなかで示すために、ラテン語でペルソナ・フィクタ(Persona ficta)、すなわち、“Fictitious person”(虚構人)と呼んだことに由来している。ローマ法にはなかったコーポレーションにペルソナを見出すことで、コーポレーションに契約締結を担い法的責任を負う主体としての人格権が付与され、問題発生時に責任を問うことを可能にしたのである。

 このコーポレーションとして、修道院、大学、さらにギルド、会社などが認められていくなかで、いまでいう「法人」という概念が定着することになったのだ。

 電子人という法的地位を認めるべきだとする論者は、法人概念が法的人格を得た経緯と同じく、電子人の責任を問うために必要だと考えている。賛成論者の多くは、電子人には婚姻する権利も投票権も、あるいは、所有権も認めていない。ただ、その法的責任を問えるようにするためにロボット自体に法的人格を与えて、ロボットに保険加入を義務づけ、万一の事故に際して賠償できるようにすべきだと主張しているのだ。

 こう考えると、ロボットに電子人の法的地位を認めることは決して荒唐無稽な話ではないと言えるだろう。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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