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李克強首相の全人代演説から浮かぶ香港、台湾、中国の関係性

なぜ、台湾よりも先に香港に言及したのか? 対米関係の影響も色濃く

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

香港が独立国のようになるのを阻止

 ひとつは、2014年の「雨傘デモ」の大型版かつ長期化版として、五月雨式に抗議集会や暴力的なデモが起ることで、香港があたかも独立国のようになっていくのを阻止することだ。背景には、香港の動きを止めなければ、中国本土の他の都市にデモの勢いが波及しかねないという危機感があるのだろう。

 香港では昨年、中国本土との逃亡犯条例改正案が出されたことを発端に、学生を中心にデモが拡大して7カ月に及んだ。世界の報道は明らかに「民主派」寄りだった。例えば、物理的に50万人も入れない場所で、100万人のデモがあったなど話を大きくした報道がなされた。正しい数字を報道したのは、(筆者の知る限り)ロサンゼルス・タイムズだけだった。

 デモの参加者が身元を隠すため、「オクトパス」(JR東日本のスイカに相当)ではなく現金で地下鉄に乗ったという報道もあったが、実際は現金による切符販売機のほとんど使用停止になっており、予定通りにはデモの開催地には行けなかっただろう。その結果、多くの人がデモ参加したのは確かだが、最高200万人ともいわれたデモは起きていなかったはずだ。ただ、報道からは香港は革命前夜という印象さえ受けた。

 当時、デモは毎週末におこなわれ、徐々に過激化、催涙弾などを使う警察との衝突も繰り返された。香港行政を担う立場からすると、こうした事態を未然に防ぐのは急務。香港は世界の重要な金融センターであり世界の観光地だからだ。

 実際、大規模なデモ隊と警察の衝突があった日の夜は、観光地とはとても思えない異常な雰囲気で、そこからは「安全」が消えていた。

 なお、この民主化よりのメディアを通した海外の目に支えられたのが、昨年11月の区議会議員選挙(地方選挙)だ。民主派が389議席を獲得し、建制派(親中派)の60議席を圧倒した。中国としては、“内政干渉”されたような気持ちのはずで、本年9月の立法会(国会にあたる)選挙への影響を排除したいはずだ。

拡大「逃亡犯条例」改正案の撤回を求めるデモ行進の参加者ら=2019年7月21日、香港、益満雄一郎撮影

香港と中国は同一だと示す

 もうひとつは、香港が経済交流の観点では実質的に中国の一部になりつつあるなか、香港を訪れる中国人に香港と中国とは同一だと示すことで、中国の人民に法令の公平感を理解させることである。

 昨夏、中国政府が台湾への渡航を制限した際、中国人の旅行者が世界で最も増加したのは香港である。さらに、

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

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