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コロナ危機を乗り越えてつくるべき本当の「日本モデル」

神津里季生・山口二郎の往復書簡(4)しごとを尊重しあい尊厳ある生活ができる社会を

山口二郎 法政大学法学部教授(政治学)

 連合の神津里季生会長と法政大学の山口二郎教授の「往復書簡」。今回は、5月28日に公開した神津会長の「その場しのぎの緊急事態宣言解除~社会を掴む握力を失った政治」に対するの山口教授の返信です。

連載・往復書簡 コロナ危機と政治 神津里季生・山口二郎

拡大取手の作家が制作した宅配便業者や警察官など、暮らしを守る人たちにエールを送るイラスト=茨城県取手市取手3丁目

神津里季生様

 お手紙、興味深く拝見しました。緊急事態宣言は解除されたものの、これは政治家の都合によるアナウンスメントであるとも思えます。実際、東京では感染者が再び増加し始めました。収束などという政治家の言葉に騙されないで、ウィルスと付き合っていくための作法を見につけるしかないのかと思っています。

 ついでながら、政治家の使う言葉について、違和感を大事にする必要があります。安倍晋三首相はコロナ危機を収束させたのは「日本モデル」だと言いましたが、そんなものがどこにあるのでしょうか。

 小池百合子東京都知事は感染者の再増加に対して「東京アラート」を発しました。なぜ感染警報ではなく、アラートなのでしょうか。日本語で警報を発すれば人々は再び自粛に戻り、ぬか喜びさせた政治家の責任を問うかもしれません。だからどの程度の深刻さかわからないカタカナ言葉をあえて使っていると私は思います。

ひらがな表記の「しごと」の意味

 本題に入りましょう。お手紙の中で、神津さんがあえて「しごと」と、ひらがなで表記していたことに私も共感しました。これは、英語で言えば「ワーク」でしょう。

 この言葉には、報酬を得るための労働だけでなく、芸術家や学者の作品、使命の遂行など広い意味があります。漢字で仕事と書くと、賃金を得るための労働というイメージが強くなるので、あえてひらがなで表記されたものと想像します。

 おっしゃる通り、しごととは、人間が夢を実現するために自分のエネルギー、意欲を注ぎ込む活動です。生きるための労働に持っている時間の大半を使わざるを得なかった時代と異なり、近代において人間は自分の存在理由となるようなしごとに取り組む自由を得ました。

 規模はともかく、人はそれぞれのライフワークを追求できるはずです。自分の目標に向かって力を発揮することができないような社会は、生きるに値しないという合意が今の時代にはあると思います。

 人間が自分の存在理由を見出すのは、それぞれの内なる理想や使命感に照らして達成感を味わうという軸と、社会の中の他者から認められ、感謝されることで満足感を持つという軸の二つに照らしてのことです。みんなが、特に若い人が、自分の目的に向かって力を発揮することができるような環境を取り戻すことは、我々の責任です。

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筆者

山口二郎

山口二郎(やまぐち・じろう) 法政大学法学部教授(政治学)

1958年生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学法学部教授を経て、法政大学法学部教授(政治学)。主な著書に「大蔵官僚支配の終焉」、「政治改革」、「ブレア時代のイギリス」、「政権交代とは何だったのか」、「若者のための政治マニュアル」など。

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