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コロナ危機を乗り越えてつくるべき本当の「日本モデル」

神津里季生・山口二郎の往復書簡(4)しごとを尊重しあい尊厳ある生活ができる社会を

山口二郎 法政大学法学部教授(政治学)

社会的分業の中で自分の役割を担うことの価値

 合わせて、この機会に社会的分業の中で、自分の役割を淡々と担うことの価値を再認識したいと思います。

 コロナ危機の数少ない予期せざる恩恵の一つに、様々な人間によるしごとが織りなす社会的ネットワークのおかげで私たちが生きていることを実感できたことがあります。世の中には、待遇とは関係なく、自分のしごとを使命だと思って遂行する人々がいて、我々が不自由なく生きていけることが今回、可視化されました。

 コロナウィルスの感染爆発に際して、欧米のほとんどの国では厳しいロックダウンが実施されましたが、物資の輸送、販売、清掃、郵便、公共交通などのサービスは維持されました。これらの分野では人々がウィルスに感染するリスクを冒して、日常の業務を続けました。

 医療従事者だけでない。これらの社会を支えるサービスの労働者も、キーワーカー(重要な労働者)、エッセンシャルワーカー(不可欠な労働者)と称賛され、感謝しようという運動が広がりました。日本では、小泉進次郎環境大臣が、清掃労働者に感謝するためにゴミ袋に感謝のメッセージを描こうと提唱しました。

称賛にふさわしい待遇は確保されているか

 感謝の気持ちを持つことについては、誰も異論がないでしょう。しかし、感謝と偽善は紙一重です。4月1日、BBCニュースで「最低賃金の英雄たち(minimum wage heroes)」という報道がありました。配達、郵便、介護、病院の清掃などの現場で人々は週94ポンド(約13000円)の最低賃金で必死に働いて、国民の生活を支えているという短いニュースでした。これらの人々は自分や家族を養うために働かなければならないだけでなく、社会が自分の仕事を必要としているから危険を顧みず働くと言います。

 実は、過去30年の規制緩和の流れの中で、体を使った定型的な仕事は熟練を必要としないということで、非正規や請負という不安定で劣悪な条件に追いやられてきました。イギリスの映画監督、ケン・ローチの近作「家族を想う時」は請負という形で宅配の仕事をして、心身を壊す主人公の話ですが、全く救いのない結末で、暗澹(あんたん)たる思いがしました。しかし、それが現実です。

 キーワーカーとかエッセンシャルワーカーとか言うなら、それにふさわしい待遇を確保すべきです

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筆者

山口二郎

山口二郎(やまぐち・じろう) 法政大学法学部教授(政治学)

1958年生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学法学部教授を経て、法政大学法学部教授(政治学)。主な著書に「大蔵官僚支配の終焉」、「政治改革」、「ブレア時代のイギリス」、「政権交代とは何だったのか」、「若者のための政治マニュアル」など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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