野球人、アフリカをゆく(29)準備は整い選手の技量も上がった、いよいよその時が
2020年06月06日
<これまでのあらすじ>
かつてガーナ、タンザニアで野球の普及活動を経験した筆者が、危険地南スーダンに赴任し、ここでもゼロから野球を立ち上げて1年3カ月が過ぎた。アメリカ帰りのピーターと出会い、女子ソフトボールも立ち上げる。一方、アフリカ野球支援をより持続的に拡大させるため、NPO法人を解散し、新たに一般財団法人アフリカ野球・ソフトボール振興機構を立ち上げた。プロ野球界、アマチュア球界、ソフトボール界の要人の参画により、ソーシャルビジネスによるチャレンジが始まろうとしていた。
東京都千代田区平河町といえば都内きってのお屋敷町だが、今や日本の政治経済の中心地のひとつ。永田町、紀尾井町に隣接し、オフィスビルや各種団体の会館などが多くみられる都心に近いところだ。一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)の事務所もその一角、永田町駅から徒歩3分の平河町のビルの中にある。
J-ABSは三つの目的を掲げている。アフリカにおける野球及びソフトボールの振興を通じ、アフリカの健全な社会の発展に貢献できる人材育成を行うこと。日本とアフリカのビジネスを含めた民間交流を推進すること。そしてアフリカの野球・ソフトボールの発展により、オリンピックの正式競技としての復活を目指すこと、だ。
この趣旨に賛同いただき、野球界、ソフトボール界から4人の方に理事になっていただいた。
プロ野球界から、楽天イーグルスのオーナー代行であり、日本プロ野球機構パリーグ理事長(2019年12月時点)も務めるビジネスコンサルタントの井上智治さん。ソフトボール界からは、元全日本女子ソフトボール代表監督の宇津木妙子さん。アマチュア野球界から、全日本野球協会国際担当理事であり、全日本女子野球連盟代表の山田博子さん。そして代表理事に私だ。
年の瀬の2019年12月26日、J-ABS設立後初めての理事会が、柴田浩平事務局長の司会で始まり、冒頭に代表理事として私が挨拶を促された。
「みなさま、この度は、理事にご就任いただきありがとうございます。この財団法人は、井上さまとの出会いから話が始まりました。2003年に設立した『アフリカ野球友の会』による長年のアフリカでの活動を高く評価していただき、これをもっと発展していけないか、ということから財団を設立する話に発展していきました。
そして、宇津木さん、山田さんのご賛同、ご参画をいただき、井上さんの会社(井上ビジネスコンサルタンツ)から、立ち上げ資金や事務所スペースの提供などのご協力をいただくことで、本日を迎えることができました」
私は丁重に謝辞を述べながら、ここ数年、17年にわたり経営してきたNPO法人「アフリカ野球友の会」(アフ友)の未来が描けずにぶち当たっていた高い壁をやっと乗り越えたという思いでいっぱいだった。
アフ友の長年の課題だった継続性のある実施体制。野球界、ソフトボール界の大御所の参加。そして、柴田の事務局長就任で整ったのである。
理事会では、続いて柴田事務局長から、東アフリカの市場調査報告が行われた。柴田は、タンザニア甲子園大会のあと、ケニア、ウガンダを2週間かけて回った。民間企業や大使館、JICA事務所、そして各国野球連盟、ソフトボール連盟を訪問し、情報収集とネットワーク構築を行った。タンザニアの調査結果を含めその報告がシェアされ、予算などの運営面について協議があり、第一回理事会は1時間半で無事終わった。
2019年は、南スーダン野球が、ピーター、ウィリアム両コーチとの出会いから南スーダン野球連盟発足まで駆け上った発展の1年であり、17年間活動したアフリカ野球友の会の解散から新たな団体創設への転機の1年でもあった。
年が明け、2020年1月。いよいよ4年に一度のオリンピックイヤー、それも東京オリンピック開催の年がやってきた。2008年の北京オリンピックを最後にオリンピック競技から外れた野球とソフトボールが、東京オリンピックで12年ぶりに復活する。このモメンタムに乗じて、野球とソフトボールの海外普及への関心を高めたい。J-ABSの本格稼働の1年にしなければならない。
そんな思いを胸に、まだ松の内の間に、酷暑の南スーダンに戻ると、職場の若手スタッフ、愛称ダイスこと金森大輔がプログラム表を手に平日執務している私の部屋に入ってきた。
「友成さん、NUDのプレイベントで野球紹介をやってもらう件、ジュバ市内のグデレ地区でやることになりました! 1月19日です」
「おお、そうか!よし、ピーターに伝えておくよ」
NUD(National Unity Day;国民結束の日)については、第19話で説明したが、国民スポーツ大会(日本でいう国体)のことだ。多様な民族同士の紛争の歴史が長いこの国の民族融和をスポーツで実現しようとするものだが、全国から集まる選手たちだけでなく、多くの市民に関心を持ってもらい、平和の果実を感じてもらうことが重要だ。
そのため、大会が始まる前にNUDプレイベントと銘打ち、歌や踊り、お笑いなどを中心コンテンツにしたプログラムを、ジュバ市内の人が集まる広場を使って開催する。スポーツがメインテーマであるため、ドッジボールに似た女性向けの南スーダンオリジナルスポーツ「ボルボル」の試合を行ったりするのだが、今年は野球を入れてみよう、ということになったのである。
これは南スーダン野球を初めて市民の前で紹介するという歴史的な機会だ。
南スーダン野球団は、普段は高い壁に囲まれたジュバ大学のグラウンドを使わせてもらって練習しているので、市民の目にとまることはない。またセキュリティ上の問題から、これまであえてメディア取材なども避けてきた。
しかし、今や南スーダン野球連盟も立ち上がり、ピーターやウィリアムといった意欲に溢(あふ)れるコーチもいる。なによりも選手たちの技術が上がってきた。いよいよお披露目の時だ。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください