藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【12】ナショナリズム ドイツとは何か/ベルリン③ 現代史凝縮の地
ナチスの降伏後にドイツの分割占領を米英ソ首脳が決めた会談の地・ポツダムを訪ねた後、ローカル線に乗り、旅の泊まり先のホテルがあるベルリンの方へ戻る。その途中のヴァンゼー駅で下車した。
路線バスに乗る。湖水浴場もある穏やかなヴァンゼー湖を右手に眺めながら、細くくねる舗装路を10分ほど行き、庭園を抱えた別荘の前で降りる。
ナチス政権がここで、ユダヤ人のホロコースト(大量虐殺)に関する「関係省庁会議」を開いたと言ったら、理解してもらえるだろうか。
第二次大戦中の1942年1月20日、ナチスのSS(親衛隊)が所有するこの別荘で、会議は開かれた。内務省、法務省、東部占領地域担当省や、SSの「人種と移住」本部といった組織の高官15人が、「ユダヤ人問題の最終解決」について意思統一を図った。
別荘はいま、「ヴァンゼー会議の家」という史料館になっている。
私はこの旅で、ドイツのナショナリズムに深い傷痕を残すナチズムと、その反省を継ぐ営みを見つめようと、様々な場所を訪れてきた。それぞれに特色があった。
2月14日午後に訪れたこの史料館のこだわりは、「文書」だった。手前の庭園から濃密な展示があった。