利用者の側がプロバイダーのダブルスタンダードを見抜く力をもたなければならない
2020年06月19日
前回、「誹謗中傷だけではないもう一つの問題:新しい「検閲」」において、情報発信者と情報受信者をつなげる役割を果たすインターネットサービス事業者(以下、プロバイダー)の責任をめぐって若干の考察を試みた。今回は、やや学問的な観点から、プロバイダーの問題を考えてみたい。
拙著『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)のなかで、ネットワークに基づくインフラについて経済学的に分析したことがある。ここでは、そこでの考察を発信者と受信者をつなぐプロバイダーというネットワークにも適用して、この問題を分析してみたい。
上の図は、「ネットワーク型インフラのネットワークイメージ」を示している。これは、Aグループ、Sa-Sb、Bグループを全体としてひとつのネットワークとみなす従来の見方とは異なって、各コンポーネント(Aグループ、Sa-Sb、Bグループ)に分けて競争的であるか否かを検討することで、その改革につなげようとしている。その結果、つぎのような三つの結論が主張されるようになった。①潜在的に競争できるコンポーネントと自然独占的コンポーネントについて異なる所有者とするよう、垂直的・水平的に分離すべきである、②競争的活動については、政府の干渉や所有規制は緩和されるべきである、③自然独占が不可避なコンポーネントについてだけ規制のもとにおき、公的部門によって運営されるべきである――というのがそれである。やや学問的な説明だが、我慢していただきたい。
具体的には、下の表に示したような競争・非競争のコンポーネントの区分が可能ということになる。この表には、石油が表示されていないが、あえて区分すれば、長距離の原油パイプラインは非競争的コンポーネントとみなすことができるかもしれない。
非競争的なコンポーネントを構成する施設はボトルネック施設ないし不可欠施設とよばれ、他の目的に使用できないため、その大部分は埋没費用から構成される固定費用となるものとなる(生島靖久著『開発金融論』)。この部分では、ボトルネック独占が残り、公的部門による経営が維持されることになる。その場合でも、独占の弊害を除去するための規制改革が必要になる。
競争可能なコンポーネントをめぐっては、ネットワーク型インフラを分離して、競争可能なコンポーネント部分について民営化やコンセッションといった方式による民間供給への改編が必要になる。この際、BOO(Build<建設>-Own<所有>-Operate<運営>)方式や資産売却による民営化では、インフラ資産の所有権は期限の制限なしに民間に帰属することになる。一方、リースやフランチャイズを利用したコンセッションの場合には、コンセッション期間の終了時に、インフラ資産の所有権は公的機関に返還される。
一方、競争可能なコンポーネントに対しては、分離後、そのコンポーネントへの規制を特別な規制機関に委ねるべきなのか(米国の連邦規制当局や州の公益事業委員会)、一般競争法を適用すべなのか(EU)、という問題が残されている。後者は産業ごとの特殊性が軽視され、事後的規制となる傾向がある半面、一律に手際の良い規制が可能となる。
ここで紹介したような考え方は先進国ばかりか、発展途上国や旧ソ連の国々などにも広がっている。その結果、ネットワーク型インフラの多くが実際に分離され、一部は民営化されたり、新たな規制のもとにおかれたりしている。とくに、パイプライン部分の改革で重要なのは、上の図において、パイプライン部分を示すSa-SbがAグループやBグループに開放される(「コモンキャリア化」)という改革である。コモンキャリアは一般公衆向けの輸送・伝達手段ないしその所有者を意味し、日本では、自前の通信設備(とくに回線網)を所有する通信事業者をさすことが多い。こうなれば、AグループとBグループが売買契約を結び、必要に応じて、輸送サービス(Sa-Sb)を求めるという形態が可能になる。
この分析をプロバイダーに適用してみよう。プロバイダーは前ページの表の「通信」というネットワーク型インフラにかかわっている。もはや有線ではなく、無線による通信が当たり前になっている現状では、かつて固定電話網を「市内通信網」として国家主導で整備したために「非競争的活動」と位置づけられたものの役割は低下している。
日本の場合、通信回線網を
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