焼き芋と「カンダバージューシー」で戦争をしのび、伝統料理で長寿食を体験
2020年06月13日
沖縄戦の組織的な戦闘が終わった日とされ、沖縄県では「慰霊の日」として祝日になっている6月23日の前後、沖縄県内の各小中学校の給食に必ず登場するメニューがある。焼き芋と「カンダバージューシー」。沖縄戦中に住民が食べていた食事を再現したものだ。
カンダバーとは、沖縄の言葉で食用甘藷の葉(カズラ)のこと。ハートの形をした、沖縄では伝統的な葉野菜で、一般家庭では戦後もしばらく、庭に咲いているものを摘んで調理していたという(つるも食べるが、芋は食べない)。
栄養価が高いことから、とりわけ戦中戦後の食糧難の時代には重宝された。私も一度、スーパーで買って食べたが、くせがなく柔らかい葉で食べやすい(つるは煮込んでも硬くて歯が立たなかった)。
ジューシーには二種類ある。一つが、硬めに炊いた「クファジューシー」で、沖縄の料理として全国的に知られている、豚の三枚肉が入った炊き込みご飯だ。もう一つが、雑炊状の「ボロボロジューシー」。カンダバージューシーは、カンダバー入りのボロボロジューシーである。
戦中は具はカンダバーのみ、味つけは海水だったという。現在の給食で出るカンダバージューシーは、カンダバーだけではなく里芋も入っており、かつお節と味噌で味つけされている。
芋とカンダバージューシーは、慰霊の日の前後だけではなく、祖先の霊を迎える「旧盆」にも食べられる。沖縄では、盆の行事を旧暦の暦にあわせて行うので旧盆と呼ぶ。沖縄戦中の食事をゆかりの日に体験することで、戦後生まれの児童にも戦争を知ってもらおうという試みだ。
公立の小中学校の給食は、児童、生徒に各家庭の経済格差を意識させないことや、健康な身体を育てることが主な目的となっているが、食材の「地産地消」も重視されている。たとえば、東京都江戸川区の小学校では、地域の特産品である小松菜が、味噌汁は当然のこと、パンやカレーのナンに練り込まれている。福岡県宗像市では椿油を使ったご飯が、宮崎県では切り干し大根が学校給食に登場する。
1メートル大のマンビカーは、そのまま姿揚げにされて教室に運ばれ、給食台の周りに集まったクラスメイト全員で、突っついて食べる。小骨が多いので敬遠する児童もいるが、誰が目玉を食べるかを全員でジャンケンして決めるなど、盛り上がる一品だ。マンビカーをシイラカンスと表記する学校もあり、「沖縄では給食で生きた化石を食べるの!?」と、私を驚愕させた。
ポテトチップスのように揚げたゴーヤーチップス、麻婆ナーベーラー、冬瓜ジャム、田芋田楽など、給食でしか見ないメニューが並ぶ。シマナーはおひたしが一般的な食べ方だが、独特の辛みがあるので、給食では「チャンプルー」(炒め物)が多い。伝統料理の「ンジャナバーのスーネー」(にが菜の白和え)は、苦手な給食メニューとして、大人になっても記憶されていたりする。ちなみに、私は好物だ。
沖縄県の学校給食が地産地消にこだわるのは、戦前の食生活が、沖縄戦とその後27年間続いた米軍の占領統治によって、失われてきたという危機感からだ。
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