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自民党内、いまだに静かです!/石破茂にとことん聞いた(中)

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 大きく支持率を下げながらも迷走を続ける安倍政権に対して、自民党内からは反発の声が強まっているとは言えない。かつての自民党には見られなかった現象だ、とする見方もある。

 霞が関の官僚群も安倍首相に対する忖度、迎合の度合いが強く、安倍政権前に比べて変質していると指摘される。

 「政官」ともに歪み続ける安倍政権下の日本政治。そこには一体何があるのか。日本政治が歪みの磁場から脱出できる道はあるのか。あるいは磁場の中心を破壊しない限り救いの道はないのか。

 『内閣支持率、急落です!/石破茂にとことん聞いた(上)』に続く、石破茂氏へのインタビュー第2回は、政治家としてのあり方から質問を重ねてみた。

斎藤隆夫の衆院除名に反対したのは7人だった

――「政務官になりたい。理事になって委員会を差配したい。大臣になりたい」という願望は、私が思うに、政治家を志す人間として半分のことだと思うんですよね。もうひとつの半分は、もともと政治家になって何かの役に立ちたいという志そのものがあるじゃないですか。それは、そういう出世とは関係なく「おれは自分自身の志を貫くんだ、出世なんかしなくてもいい」という、まさに「初志貫徹」の部分があるじゃないですか。そういうものが人間の中に半分半分あると思うんですよね。では、現在の若い議員というのは志の部分が弱いんですか。

石破 斎藤隆夫先生の、いわゆる「反軍演説」というのがありましたよね。昭和15年の2⽉2⽇です。与党の⽴憲⺠政党の代議⼠であった斎藤隆夫先生が、1時間半にわたる⼤演説を本会議場で行った。相⼿は内閣総理⼤⾂、⽶内光政。録⾳が残っているから今でも聞くことができます。

 彼の演説は、実は「反軍」でもなんでもなかった。この⽇中戦争、当時は⽀那事変と⾔っていましたが、「これは何のためにやっている戦争なんだ。何のために我が国の将兵たちは異国で戦っているんだ。戦争⽬的を述べよ。そして戦争を始めたからにはどうやって収拾するのか、その⾒通しを述べよ」と⾔っただけのことでした。

 だけど、それで衆議院を除名になり、その除名に反対した者は7名しかいなかった。つまり、今の議員が特に志が低いとかそんなことではないと私は思っています。

 本来、議員が忠誠を誓うのは⾃分を⽀持してくれた人々に対してなんだろうと思っているんです。私で⾔えば⿃取の⼈たちですね。そこから敷衍して、「国民の代表」として国民に対して恥ずることがなければいい、と思うわけです。だから、自分が思うことを⾔えないで汲々としながら出世を⽬指すんだったら、それはそもそも政治家である意味がなくなってしまうのかもしれません。

 でもそれは、うちの選挙区の⼈たちは理解してくれているし、私は幸せな選挙区から出てきているんだけど、そうじゃない⼈たちもいっぱいいるんじゃないかと思います。今の⼈たちに限ったことじゃない。

――斎藤隆夫の時代にはそういう演説をしたことで除名になりました。しかし、今の時代すぐに除名になるかというと、そういうことはありません。しかも今は世論というものの力が相当に強い。その世論をバックにすれば怖くない、ということがあると思います。今、コロナウイルスの大きい第2波が来ることが予想されています。しかし、今の政権はそれに対してほとんど何も準備を進めていません。国民を守るためには、そういう政権を変えなければならないのではないですか。そういう時に自分の出世だけ、目の前のポストのために汲々としていいのか、と私は考えますが。

世論が変われば「あんたの言う通りだ」と言う人が出るのかもしれない

石破 言うは易しいですが、ポストだって単純に自分のためだけじゃない。地元の方々のために、と思っているわけですからね。私は有権者にも恵まれているし、同期の中でも⽐較的若くして⼤⾂を拝命したし、⼤⾂も何度も経験させていただいている。だから「⽯破さんはいいよ。選挙も強いし、役職もいっぱいやったし。あんただから好きなことが⾔えるんだよ。あんたがそういうことを⾔えば⾔うほど、嫌味に聞こえる」と⾔われることもあります。

 ⾃分の⾔っていることが何故共感を呼ばないのかと考えた時に、「⾔えば⾔うほど嫌味に聞こえる」という指摘にぶつかるんです。だから、「そうだ、⽯破の⾔う通りだ」というような世論が醸成された時には、「これはおかしい」という声を上げる人も増えるでしょう。

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