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トランプがいなくなってもアメリカ・ファーストはなくならない

エピローグ そして11月を迎える

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

ホワイトハウス前デモ強制排除事件

 「Don’t shoot!(撃たないで!)」「Don’t shoot!」――

 2020年6月1日夕、首都ワシントンDCのホワイトハウス前のラファイエット広場前は1千人近くのデモ隊がシュプレヒコールをあげ、熱気に包まれていた。コロナ禍のさなか、マスクを着用した参加者たちは「Black Lives Matter(黒人の命も大事)」「Silence is violence(沈黙は暴力だ)」などと書かれた手製のプラカードを掲げていた。

拡大両手を挙げ「撃たないで」と叫びながら、ホワイトハウス周辺を行進するデモの参加者たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年5月31日

 目の前のラファイエット広場はバリケードが築かれて完全封鎖されており、広場内では盾をもった警官隊が等間隔でずらりと並び、デモ隊ににらみをきかせていた。ただ、前日夜に抗議デモの一部が暴徒化したものの、この日の抗議デモは平和的に行われており、子ども連れの姿も見られた。

拡大ホワイトハウスの前に一列に並び、警備態勢につく警官隊=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年6月2日

 午後6時半過ぎ、抗議デモの取材を終え、トランプ大統領の国民向けの演説をオフィスに戻って聞こうと現場を立ち去りかけたとき、後方200メートルで複数の炸裂音とともに白い煙が上がり、群集が逃げる姿が見えた。催涙ガスが発射されたのだと気づいた。午後7時からの外出禁止令の発令前だった。

 同じ頃、抗議デモの行われていた現場から約300メートル離れたホワイトハウスでは、トランプ氏が国民向けの演説を始めていた。抗議デモの参加者を「怒れる暴徒」と批判し、自身を「『Law and Order(法と秩序)』の大統領」だと宣言。「(警察と州兵で)街頭を制圧せよ」という強い表現を使い、全米各地で広がる抗議デモに対して地元当局は強硬姿勢を取るように迫り、対応が不十分であれば抗議デモ鎮圧のために米軍を派遣する意向を表明した(The White House. “Statement by the President.” 1 June 2020.)。演説の間、会見場には催涙ガスの発射音が響いていた。

拡大国連総会出席後に開かれた会見で、記者からの質問に答えるトランプ大統領=ニューヨーク、ランハム裕子撮影、2019年9月25日

 トランプ氏は演説が終わると、エスパー国防長官、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長らを引き連れてホワイトハウスの建物を出て、デモ隊を強制排除した現場に到着した。向かった先は、前夜の暴動で建物の一部が燃えたセント・ジョンズ教会。歴代大統領が通う歴史的な教会である。

 トランプ氏は教会の前に行くと、教会を背景に聖書を右手に掲げ、写真撮影を行った。自身の得意とするリアリティー番組のように、メディア各社の中継のもと、「怒れる暴徒」を催涙ガスやゴム弾を使って追い散らし、自身の国民向けの演説通り「法と秩序」の回復者としてのイメージを作ろうとしたとみられる。


筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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