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アメリカの道義的凋落はどこまで続くのか。世界はどう向き合う?

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

 今日の米国は11月の大統領選挙に向けての混乱で選挙が終われば状況は変わる、と片付けてしまえないところにきている。

 トランプ大統領の政治指導者としての言動やコロナの衝撃はアメリカの深刻な分断を赤裸々に示し、人種差別廃止や性的少数者の保護、表現の自由といった民主主義の下で重要と考えられてきた概念が脅かされている。

 米国社会はこれらにどう向き合っているのだろうか。大統領選挙に決定的な影響を与えるのか。

 さらに諸外国は「アメリカ・ファースト」を貫こうとするトランプ大統領にどう向き合っているのか。距離をとろうとする国もあれば、膨大な武器の購入などでトランプ大統領の意に沿おうとする国もある。

 アメリカの道義や権威は損なわれているが、どこまで凋落していくのだろうか。それにどう向き合っていくべきなのだろうか。特に日本がどうしていくかは大変重要となる。

ホワイトハウスで国家非常事態を宣言するトランプ大統領=2020年3月13日、ワシントン

アメリカの民主主義は未だ健全?

 5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで事件は起きた。白人警官が偽造紙幣使用容疑者の黒人の首を膝で押さえ窒息死させた。世界中の人が動画を見たのだが、この動画を見る限り白人警官による黒人虐待が色濃く感じられる。

 瞬く間に抗議デモが全米各地で発生し、一部では暴徒化、略奪事件も起きた。激しい抗議デモの全米への広がりの背景には、新型コロナウイルスに感染し、死亡する国民の中で黒人の割合が大きく、その理由として黒人の多くは感染予防策が十分とれない底辺の労働者であることや十分な医療が受けられないことへの鬱積した不満があると言えるのだろう。

 新型コロナがもたらしている米国社会の分断が如実に表れていると言える。

 トランプ大統領は人種差別の糾弾やデモの鎮静化を呼び掛けるよりも、これら暴徒を「アンティファ(過激派左翼)」や「テロリスト」と称し、警察・州兵による取り締まり、さらには連邦軍の出動などによる実力行使を訴えた。

ホワイトハウス周辺で抗議デモに集まった人たち=2020年6月6日、ワシントン

 これに対してアメリカ社会の反応は健全であるように見える。

 世論調査では64%が抗議デモに同情すると答え(27%が反対)、実力行使を訴えたトランプ大統領の支持率は過去最低に近い38%に落ち込んだ。さらにエスパー国防長官やミリー統合参謀本部議長は連邦軍の使用は憲法違反の恐れがあるとして懸念を表明した。共和党GWブッシュ大統領を含む歴代大統領は人種的平等性を求める抗議声明に名を連ねた。

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