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本物のコロナ対策はこれだ! 大村秀章・愛知県知事×保坂展人・世田谷区長

東京都の小池知事や大阪府の吉村知事ばかりが脚光を浴びているのは正しいのか

論座編集部

 安倍内閣がコロナ対策で迷走を重ねるなか、自治体独自のコロナ対策へ期待が高まっています。なかでも脚光を浴びているのが、東京都の小池百合子知事と大阪府の吉村洋文知事です。他方、この二人のコロナ対策には「パフォーマンス先行」との批判も強くあります。では、地に足の着いたコロナ対策というのは、どういうものなのでしょうか。政治学者の中島岳志・東工大教授が注目するのが、愛知県の大村秀章知事と東京都世田谷区の保坂展人区長の取り組みです。中島教授の仲介で、大村知事と保坂区長が6月17日、オンラインで対談しました。(論座編集部)

保坂展人・世田谷区長 大村さん、お久しぶりです。大村さんとは1996年衆院選で初当選した国会の「同期」です。首長になったのも大村さんが2011年の2月で私が4月。そしていま、愛知県知事と世田谷区長としてコロナ対策に向き合っている。国会議員のときは自民党と社民党でしたが、政治経歴は重なり合いますね。

大村秀章・愛知県知事 保坂さんとはリーマン・ショックが日本を襲った2008年の大晦日、「朝まで生テレビ」に出演し、元旦の朝までご一緒させていただきました。保坂さんは社民党の国会議員、私は厚労副大臣でした。当時は仕事ばかりか住むところまで失う人が続出し、番組前後に保坂さんと与野党の立場を超え、「日本社会はこんなにセーフティーネットが脆いのか。何とかしないといけない」と話し合ったのを覚えています。

 朝6時に番組が終わった後、湯浅誠さんらは日比谷公園の派遣村へ。私は一旦地元に帰ったのですが、1月2日に東京へ戻り、300人収容できる厚労省の講堂を開けて多くの方に入っていただきました。

 日本社会はいま、コロナ禍に直面し、セーフティーネットをどうつくっていくかを突きつけられています。リーマン・ショックから11年たちましたが、私たちの社会はいまだにセーフティーネットを十分に張り巡らせることができていません。

保坂 当時の厚労大臣は舛添要一さんでしたね。厚労省の講堂活用は私から提案しましたが、素早く動いていただいたと感じています。大村さんは副大臣として新型インフルエンザの対応にもあたられましたね。

大村 そうです。新型インフルでも厚労省の講堂をあけて職員300人を集め、私はその対策本部の責任者をしました。当時は2カ月間は詰めきりでした。当時作成した感染症対策のひな型は政府内に残っているはずです。

保坂展人・世田谷区長
大村秀章・愛知県知事

院内感染を防いだ「愛知モデル」

保坂 私が今回、世田谷区に新型コロナウイルスの対策本部をつくったのは1月末でした。

大村 愛知県では1月26日に中国・武漢からの旅行者が陽性と確認されたのが始まりです。2月14日に初めて県内の人の陽性が確認され、スポーツジムでクラスターが発生しました。その後、高齢者施設を中心に大きなクラスターが見つかりました。

 また、大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の陽性患者を、愛知県で4月開院を目指していた藤田医科大学の岡崎医療センターに受け入れました。毎日毎日、受け入れ病院を探すので大変な日々でした。本当に苦しい思いを最初にしたのです。

 ただ、東京や大阪のように感染者数が急増することはなく、第一波を切り抜けることができました。新規感染者数は4月25日に1人となり、そこからはいちばん多くて5人です。今は第二波に備え、これまでの経緯を検証しているところです。

小池百合子東京都知事
吉村洋文大阪府知事

保坂 藤田医科大学で多くの無症状の陽性者の方を受け入れたのは素晴らしい決断でしたね。

大村 陽性者128人を受け入れましたが、医師・看護師ら現場スタッフが本当に頑張ってくれて、ひとりも院内感染者を出しませんでした。日本でいちばん最初にいちばん多くの陽性者を受け入れ、誰にも経験がないなかで動線をきっちり区切り、院内感染がまったくなかったのは「藤田モデル」であり「愛知モデル」と言えるでしょう。その経験値を県内の病院に周知し、共有して対策を進めてきました。

保坂 世田谷区では466人が陽性になり、16人が亡くなりました。4月に入りPCR検査体制を必死で整えました。今は1日最大200人は検査できます。これからもっと増やします。

 世田谷区では感染増の波は3月半ばすぎから来ました。それまで保健所がひとりひとり対応して検体をとりにいくという作業をしていましたが、とても間に合わず、あらゆるところがパンクしはじめました。本来、東京都が行うはずの入院調整機能が動かず、救急隊もどこの病院へ搬送するか、夜中に世田谷保健所の責任者に電話して探してくれと頼み込むという状態が4月下旬まで続きました。ピークは4月半ばでした。

 東京都からは検査体制を整えようという具体的な指示は何も降りてきませんでした。医療分野を担当するのは都です。区市町村は担当部署がありません。しかし、座して待ってはいられないので、世田谷区は独自で医師会などと協力し、PCR検査体制を整えました。その後、検査のスピードが急速にあがり、第一波を乗り切ることができました。

発症から陽性まで 東京8.37日、大阪7.17日、愛知3.82日

大村 愛知県は政令指定市の名古屋市との連携が重要でした。最初にクラスターが発生したのは名古屋市内でした。そこから枝分かれして県内各地へ広がっていきます。病床がいっぱいになるのも名古屋市からです。名古屋市内の患者をいかに広域調整で近郊の病院に入れてもらうか、それに追われ続けた気がします。3月4日に県と市の共同チームをつくって朝夕は情報交換しました。

 厚労副大臣として2009年の新型インフルの責任者をしていたときのことを思い出しながら対応にあたりましたが、いちばん大事なのは「とにかくはやく検査して、はやく医療に結びつける」こと。それに尽きます。

 私は繰り返しそう申し上げてきたのですが、3月にはネットで「検査を増やしたら医療崩壊する」という言説を拡散される医者がいて、驚きました。そうした声は1カ月たつと消えていきましたが、そう主張された方々はどこへ行ったのでしょうか……。

保坂 ネット世論だけではなく、国の「専門家会議」も当初はPCR検査を広げることに賛成ではありませんでした。いつ検査拡大方針に変わったのかもはっきりしません。とくに「4日以上の発熱」というPCR検査の目安の提示が混乱を招き、入院や治療が遅れた方もたくさんいます。政府はきちんと総括をするべきです。

大村 当初は「検査をたくさんやると病院に入れない」と懸念する声がありましたが、感染症対策の基本は「まずは検査」です。「はやく見つけてはやく治療する」のが基本なのです。愛知県は3月からずっとそうやってきました。

 検査能力を1日300件から増やし、今は1100件です。秋には1600件が可能になります。はやく検査してはやく治療する。重症者を重点的に治療し、軽症者や無症状の方は自宅かホテルに入ってもらう。愛知県はホテルを二つ用意して稼働しました。

 症状が出てから検査を経て陽性確定に至るまで平均してどのくらい日数がかかったかという全国データがあります。4月12日の日本内科学会緊急シンポジウムに提出された資料です。一番長い日数を要したのが新潟県で8.46日。次は東京都の8.37日。次が北海道で7.7日、4番目が大阪で7.17日。これに対して愛知県は3.82日です。愛知県は発症から検査で陽性が確定するまで「4日間」かからなかったのです。

 愛知県のコロナ患者の91%は軽症です。重症が4%、ECMOが必要な患者が4%。はやく検査してはやく治療すれば軽症で収まることを示しています。

大村秀章・愛知県知事

やるべきことを丹念に愚直にやるかどうか

保坂 東京では当初、保健所への電話が殺到してなかなかつながりませんでした。電話がつながっても、検査センターで結果が判明するまで長い時には、さらに4~5日かかった。だから平均8日以上を要したのでしょう。

 保健所がすべての対応をやっていたのが問題でした。病院を探すのも空きベットを探して断られ続けながら、保健所の責任者が一件一件電話していたのです。とても疲弊しました。4月半ば、いちばん厳しい時期に医療体制が限界を超えていたのは事実です。

 当初、患者の方は発熱などの症状が出てから4日待って、5~6日目くらいに病院に現れました。専門家会議の「4日以上の発熱」に従い、それを経てから電話をし、ようやく電話がつながって指示を受けていたら、6日くらい経過しますよね。その期間で症状が悪くなる人はかなり悪くなってから病院を訪れたのです。

 いまは、相談を受けたその日のうちに検査できるようになりました。翌日には結果が出ます。その結果、早く治療に結びつくようになり、軽度の段階で回復にむかい、重症者は出なくなりました。やはり「すぐに検査してすぐに治療する」。これをどんどん回していけば解決できるのです。だから愛知県は重症者が少ないのでしょう。

 このエビデンスを冷静に議論し、全国の教訓にするべきなのに、今の日本社会はそうなっていない。逆に大村さんを批判する人がいる。客観的で実証的な対策と効果の議論にしていくべきですね。

保坂展人・世田谷区長

大村 いろんな意見があっていいですし、政治家としてご批判いただくのはあたりまえですが、感染症対策というのは、やるべきことはある程度決まっていて、それを丹念に愚直にやるかどうかなのです。

 コロナは大都市の病気です。感染者が出たらただちに検査をし、医療を急ぎ、濃厚接触者を追いかけていく。クラスターを見つけて潰していくという日本のやり方をいちばん丹念に愚直にやったのが愛知県なのだと思います。その結果として、愛知県の感染者数は約520人。大阪約1800人、東京約5600人より少ない。結果は数字に出ます。それを分析して第二波、第三波に備えることが大切です。

保坂 考えていることがほぼ一緒です。国会にいるとき、大村さんは声が大きく「ヤジ将軍」でした。私も反対側の席から大村さんに向けて、時々ヤジを飛ばしていました。今、声を大きくして言わなければならないのは、感染症対策には定理、原理原則があるということです。与野党を超えて、誰が担ってもこのようにすべきである、という原則がある。それをスタンダードにし、そのやり方を全国に広げて、第二波に備えなければなりません。

第二波が来る前に病院が赤字でひっくり変える恐れ

保坂 急ぐべきは、大きな赤字を抱えて苦境に陥った病院の救済です。世田谷区の圏域の大病院は昨年同月比で4億円の減収です。小さな病院でも1億円の減収です。この財政支援は区だけではなかなか難しい。国の第二次補正予算に病院支援策が盛り込まれましたが、まだ足りません。

 このままでは経営面だけ見れば、「コロナ患者を受け入れなかった方が良かった」ということになってしまう。命懸けでやったのに経営の危機に近づき、ふんだりけったりだ、ということでコロナ患者を受け入れた病院が行き詰まっているのは、全国共通の問題です。国として感染症と闘う病院を徹底的に支えなければなりません。医療関係者の自己犠牲に対して拍手で感謝の意を示すだけでは足りません。

大村 同感です。愛知県は全国に先駆け、コロナ患者を受け入れた病院に対して患者1人あたり100万から400万円を支給する予算をつくりました。さらに、コロナ患者を受け入れていなくても大赤字の病院に対して5億円を無利子無担保で、県の一般財源から直接貸し出す制度を用意しました。5億円×6枠で30億円の予算です。

 これは全国の問題です。国が音頭をとって対策すべきです。二次補正の対策では足りません。第二波が来る前に病院そのものが経営赤字でひっくり変える恐れがあります。病院支援は今後のコロナ対策の肝です。

保坂 世田谷区は高齢者が多いのですが、介護施設や高齢者施設にも自粛をお願いしてきました。その分利用者が減り、減収が著しい。このままでは施設経営が揺らぎ、介護崩壊が現実になります。ここへの支援も欠かせません。

大村 福祉施設の利用者が減れば収支に穴が開きます。誰かが支えないと介護施設や障害者施設が倒れてしまいます。愛知県は国の二次補正の対象外となった幼稚園や保育園、放課後デイサービスなどを県独自で支援し、きめ細かく対応していきます。

保坂 大村さんと私のコロナ対策でそっくりだったのは、学校休校への対処でした。私は4月に学校を分散登校の形で再開すると決めていましたが、直前にどうしてもやめて欲しいという反対意見が殺到し、とても悩み、方針転換しました。大村さんも立ち止まって方針を変えたんですよね。1日で方針を180度変える……。同じ時期に同じことで悩んでいたようです。

大村 世田谷区でも学校を開ける、開けないでいろいろあったんですね。子どものために教育を受ける機会を確保するのが大人の責務です。私はその原則でずっとやってきました。卒業式と入学式は行いました。来賓はなし、在校生は外、歌はなしで。ただ、緊急事態宣言を出す時期と重なったので、入学式だけにとどめてしばらくは休校措置を取らざるを得ないと判断し、できるだけはやく再開することを探ってきました。

 状況に応じて機動的弾力的に対応していくしかありません。何が子どもたちのためになるか。感染が収まれば開ける。増えてくればリスクに応じて一時閉める。弾力的にやっていくことに尽きます。

保坂 いったん決めたことを変えるなという批判もありましたが、感染状況が深刻になれば、そういうことではないと思います。

「現場力」だけで第二波は乗り切れない

大村 日本社会はコロナの第一波を「現場力」を発揮してなんとか乗り切ったというふうに私は感じています。しかし、「現場力」だけで秋から冬にかけてやってくると言われる第二波を乗り越えられるか。ウイルスは進化します。次は「現場力」をしっかり活かしつつ、やはり国として感染症にどう向き合い、より効果的に合理的にやっていくかが問われています。

 ポイントは検査体制をつくり、経営的に厳しい病院をしっかり支えていくこと。そして、社会経済活動を完全に止めると日本が壊れます。感染症よりも経済を苦に命を絶たれる方が増えるという事態は絶対に引き起こしてはなりません。経済活動を再開しつつ、第二波が来たらどこかで締め、また緩める。どう機動的にやっていくかを考えなければならない。第一波が収まっても晴れやかにはなりません。

保坂 クラスターになっていくかもしれないという事例発生は、感染のピーク時には実際に発表されるクラスターよりも数倍以上あります。陰性を確認してホッと胸をなでおろす。自治体は毎日それと向き合っている。今後感染増の兆しがあれば即対応することになる。そうしたなかで、市民が少しでも安心感をもって暮らせるようにすることが大切です。

 当初は、これから数週間で、ニューヨークのようになるのではないかと怯えました。しかし「早く検査して早く治療すればそうはならない」という安心感が持てれば、日常に戻れる方が多いのではないでしょうか。

 PCR検査や抗体検査を使って行政はそういうデータを積極的に出し、一方で治療法やワクチン開発が進んでいくのを待つ。そうした科学的エビデンスに基づいた合理的政策を透明性を担保しながら進めていくことが大切です。

自治体を率いる政治家がコロナ対策で存在感を増していることは、これからの日本の政治にどのような影響を与えるのか。続編『野党再編の鍵を握るのは、コロナ対策の実務経験を持つ自治体の首長たちだ』では、中島岳志・東工大教授がこの対談をたたき台にこれからの政治を大胆に展望します。(論座編集部)