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新型コロナ・ウイルス感染症が明らかにした日本の社会保障の根本問題

フリーランス・非正規雇用の人たちはなぜ窮地に追い込まれるのか

田中秀明 明治大学公共政策大学院教授

 新型コロナ・ウイルス感染症の拡大は、雇用や働き方に大きな問題を与えている。

 例えば、非正規雇用は、製造業、小売・卸売業、宿泊・飲食業などを中心に、2020年4月、前年同月比で約97万人減少した。彼らは職を失い、ぎりぎりの生活に追い込まれている。また、会社などに属さない独立した個人事業主であるフリーランスの人たちも、仕事を失い厳しい状況である。

 政府は2次にわたる補正予算などにより救済策を講じてはいるが、対応が遅いこともあり十分とは言えない。応急措置は必要であるが、そもそも彼らへのセーフティネットが、正規雇用者と比べて著しく脆弱なのだ。

 危機は問題を顕在化させるが、今般の新型コロナ・ウイルス感染症は、まさに日本の社会保障の根本問題を浮かび上がらせている。政府は、巨額の補正予算を編成しても、問題の本質には目をつぶっている。本稿では、日本の社会保障の何が問題なのかについて、特に社会保険に焦点を当てて議論する。

「全世代型社会保障」の欺瞞

 第2次安倍政権は、当初、アベノミクスを看板に掲げるなど、経済成長優先の政策を掲げた。ようやく雇用や働き方の問題を政策のアジェンダに取り上げたのは、2017年6月に発表された「骨太の方針」、すなわち「経済財政運営と改革の基本方針2017について」である。これを受けて、人生100年時代構想会議が設置され、その検討結果は、「人づくり革命基本構想」(人生100年時代構想会議、2018年6月)としてとりまとめられ、2018年の骨太の方針に盛り込まれた。

 基本構想は、「我が国は、健康寿命が世界一の長寿社会を迎えており、今後の更なる健康寿命の延伸も期待される。こうした人生100年時代には、高齢者から若者まで、全ての国民に活躍の場があり、全ての人が元気に活躍し続けられる社会、安心して暮らすことのできる社会をつくる必要があり、その重要な鍵を握るのが『人づくり革命』、人材への投資である。」と述べ、具体的な施策としては、幼児教育の無償化、高等教育の無償化、大学改革、リカレント教育、高齢者雇用の促進を掲げる。

 フリーランスについて、政府が文書で言及するのは、2019年の骨太の方針である。ここでは、フリーランスの活用を、「成長戦略実行計画をはじめとする成長力の強化」の視点から取り上げており、「フリーランス(ギグ・エコノミー)にとって、国際市場を含む市場へのアクセスの可能性を飛躍的に高める」としている。

全世代型社会保障検討会議に臨む安倍晋三首相=2020年5月22日午後、首相官邸拡大全世代型社会保障検討会議に臨む安倍晋三首相=2020年5月22日午後、首相官邸

 新型コロナ感染症が拡大してからは、去る5月22日、全世代型社会保障検討会議が、フリーランスの処遇改善や社会保障の新たな課題について議論している。その資料によると、フリーランスの政策の方向性として、独占禁止法、下請代金法、労働関係法令に基づく問題行為について検討する必要性が述べられている。併せて、労働者災害補償保険の更なる活用についても指摘されている。新型コロナ・ウイルス感染症の感染拡大を踏まえた社会保障の新たな課題としては、医療・介護・障害等の分野で働く者の安全、事業主によるテレワーク設備の導入や研修などの他、雇用調整助成金の拡充による雇用の維持やハローワークにおける就職支援、住居確保給付金等による住居・生活支援の強化などが示されている。

 「人づくり革命基本構想」が掲げる人材投資の重要性に異存はない。多様な働き方として、フリーランスを支援することにも賛成である。しかし、これらの政府文書には、非正規雇用の問題やフリーランスをはじめとするセーフティネットのあり方については、ほとんど書かれていない。2019年の骨太の方針で、フリーランスの役割は強調されたが、フリーランスを支援する観点からの、先の全世代型社会保障検討会議での検討はあまりに薄い。

 全体をまとめると、政策の方向は表面的にはよいが、中身を伴っていないのだ。これまでの安倍政権の政策立案の特徴である「やっている感」の演出なのである。厚生労働省も、本気になって非正規雇用やフリーランスに対するセーフティネットを検討するつもりはないだろう。日本の社会保障の問題の根源、「不都合な真実」に直面するからだ。

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筆者

田中秀明

田中秀明(たなか・ひであき) 明治大学公共政策大学院教授

東京工業大学大学院及びロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院修了、博士(政策研究大学院大学)。専門は公共政策・財政学・社会保障。1985年旧大蔵省入省後、旧厚生省、外務省、内閣官房、オーストラリア国立大学、一橋大学などを経て、2012年より現職。主な著書に、『官僚たちの冬』(2019年、小学館新書)、『財政と民主主義』(共著、2017年、日本経済新聞出版社)

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