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コロナ禍のフランスで浮き彫りになった様々な「強者」と「弱者」

歴然となった社会の二分化はフランスの人々に何を残すのか?

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

「老人」と「若者」で命をめぐる差異が明確に

 コロナによる死者が急増中の4月末、統計社会学者のエマニュエル・トッドが週刊誌「レクスプレス」とのインタビューで「外出禁止」政策を批判して、「老人救済のために若者と(経済)活動を犠牲にするな」と過激な発言をした。

 フランスのコロナによる死者の90%は65歳以上、死者の平均年齢は82歳だ(保健連帯省)。50歳以下の死者は約300人との数字もある(同)。トッド自身は70歳(1951年5月16日生まれ)の“老人”なので、この発言は大目にみられたが、もう少し若かったら、大非難を浴びるところだった。

 この統計を知ってか知らずか、「外出禁止」(自宅から1キロ、1時間以内の外出は許可。地域によりマラソン時間も設定されたが、パリでは午前10時前、午後7時以降)の間も、せっせとマラソンに励む、屈強な若者が多かった。彼らはコロナに罹(かか)っても、ほとんどは無事に生還できるわけで、「コロナ恐れずに足りず」と思っていたのだろう。

 「老人」と「若者」、「弱者」と「強者」の“命”をめぐる差異が、これほど明確に数字で示された事例は、国民総動員の第2次世界大戦中ぐらいではないか。その意味でもコロナとの闘いは戦争なのだ。

勤務状況で差がある感染リスク

 「外出禁止」によって、勤務状況に関する「弱者」と「強者」もはっきりした。「外出禁止」中、官庁や大半の企業ではテレワークが採用され、自宅勤務か週に1、2回程度の出勤が多かった。出勤時も自家用車を使用し、地下鉄やバス、電車など公共交通網を利用する者は少なかった。

 一方、自宅でのテレワークが不可能な、工場で働く労働者や開店許可だったスーパー(大規模を除く)を含む食料品店や薬局の店員などは、電車や地下鉄、バスなどでの通勤を余儀なくさせられた。

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筆者

山口 昌子

山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト

元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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