立憲民主党は「枝野私党」を卒業し、消費税5%をのみ込み、政権の受け皿をつくれ
2020年06月21日
小川淳也衆院議員の17年間を追ったドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が話題だ。ひたむきでまっすぐだが、総理大臣はおろか、野党内でも出世できない政治家の姿を通して、政治家に必要な資質とは何かを問いかけている。
著書「なぜリベラルは敗け続けるのか」で野党に仲間作りの必要性を説く岡田憲治・専修大教授が映画を観たうえで、小川氏とオンラインで対談した。
東京都知事選で露呈した立憲民主党の求心力の低下ぶり、一つになれない野党勢力。いったい何が足りないのか。
政治家なのだから「ひたむきさ」だけでなく、政策を実現するために権力を摑み取る「したたかさ」も大切だ。右肩下がりの時代に対応した、新しい政治を作ろうともがく小川氏に、岡田氏が檄を飛ばす。(記事末尾に対談の動画版があります)
対談した6月18日は、東京都知事選の告示日。現職の小池百合子知事に対し、元日弁連会長の宇都宮健児氏や、れいわ新選組の山本太郎代表らが立候補した。立憲民主党は、消費税率5%への引き下げを強く主張する山本氏と折り合えず、宇都宮氏の支援を決めた。野党候補の一本化は失敗に終わった。山本氏が立候補を表明した6月15日、小川氏は自身のツイッターで「何とか野党候補を一本化できないか」と投稿。翌日、謝罪した。
小川淳也 反射的にツイッターに投稿したことは申し訳なかったと思っています。前回の2016年、宇都宮さんが(都知事選で野党統一候補として立候補した)鳥越俊太郎さんに譲ったこと。今回、山本さんと宇都宮さんとで話し合ったこと。こうしたことへの敬意が足りませんでした。
しかし、分裂した状態で勝つのは簡単ではありません。今も一本化すべきだったという気持ちは変わらない。今回、特に立憲民主党が主導権を持てなかったことに対する批判は大きかったと思います。
三輪さち子(朝日新聞政治部記者・筆者) 消費税5%の衆院選公約で合意できなかったことが立憲民主党と山本氏が決裂した原因だったのですか。
小川 新型コロナ感染症でダメージをうけたこの窮状を見ると、国民が嫌なのは、税金をとられることじゃない。税金を安心して預けられない政治が嫌なんだと思います。
岡田憲治 そうです。
小川 とはいえ、安心できる社会にはなっていません。国民には被害者感情があり、山本太郎さんの主張はそういう人たちにヒットしています。立憲民主党も、一部の野党も、10%への消費増税を決めた税・社会保障一体改革を作った民主党系ではある。しかし、せめて5%ぐらいは譲り、共闘重視で懐の深いところを見せるべきです。まずはこの窮状に対するおわびをすべきだと思います。
三輪 早ければ今年の秋、遅くても来年の秋までには実施される次の衆院選に向けて、野党はまとまれるのでしょうか。
小川 立憲民主党の執行部には、私も何度か説得をしました。将来的には、消費税をお願いするだけの信頼ある政府を作りたいし、安心できる社会を作り上げたい。でも、それは切り離し、当面の政治的対応としては、消費税率5%程度の話なら、早期に妥結して一本化の旗を振るべきじゃないか。執行部には何度も説得しています。でも、なかなか硬い。
岡田 執行部が受け入れない最大の理由は何ですか。
小川 消費増税にこだわった野田佳彦さん(元首相)の存在も一部あるかもしれません。枝野幸男さん(立憲民主党代表)と山本さんとの間の個人的な権力闘争、どっちがお株を奪うのか奪わないのかというような私闘もあるかと思います。
ただ、間違いないのは、国民にとって受け皿がないと、今の安倍内閣のような政治がいつまでも続くということです。あえて言い切るなら、消費税が5%か10%かというのは些末な話です。これにとらわれて政権与党に代わる受け皿をつくるという大義をおろそかにして良いのでしょうか。
岡田 宇都宮さんが山本さんの票を下回った場合、都市部の立憲支持層が溶解するかもしれません。終わりの始まりとも受け止められかねない。私は政党は「道具」だと思っているので、立憲民主党の組織防衛や、野党第一党の権威なんてまったくどうでもいいと思っています。だから、リベラルの選択肢を守り抜くため、三顧の礼を尽くして一本化をお願いすべきだったと私は思います。枝野さんは書生みたいなことを言っていないで、土下座も辞さない覚悟で一本化を調整するべきでした。もう遅いかもしれないけれど。
野党が内輪もめを続けていれば、安倍政権に変わる「受け皿」になり得ない。岡田氏は著書で、優先順位を明確にし、優先すべきもののために野党はまとまれ、つまりちゃんと“政治”をやれ、と書く。それができないのは子どもであり、まともな政治ではないと言う。なぜ野党はまとまれないのか。
岡田 今日の立憲民主党の現状をどう見ていますか。
小川 立憲民主党にかぎらず、野党はすさまじい遠心力が働いています。山本太郎さん、前原誠司さん、馬淵澄夫さん、山尾志桜里さんがそれぞればらばらに動いていく。そして日本維新の会、国民民主党、共産党、社民党がいる。カオスだ。まるで応仁の乱。昔から、左派の内ゲバとはいいますが、右派の内ゲバは聞いたことがないのですが……。
岡田 あまりないですね。
小川 私は民進党末期に前原代表を近くで支える立場にいましたので、希望の党の顚末には責任があります。ただ、あのとき、枝野さんが立憲民主党を打ち立てたことは大きな政治的功績です。しばらくは枝野さんの独裁が、党内で正当性を持つ状況でした。しかし、言葉遣いには気をつけなきゃいけませんが、立憲民主党はいまだに枝野私党です。
岡田 まったくその通り。
小川 だから国民的な公党に脱皮できるかが問われています。保守系の人は祖父や父から地盤を受け継いで自然に政治家になっている人が多い。一方、リベラルの人は相当のものをかなぐり捨てて飛び込んでいる。それだけに安易な妥協をしません。ここが課題です。どうすべきなのか。
小さな成功体験を紹介させてください。私は党の厚生労働部会長として、PCR検査の体制を拡充する議員立法を出すための意見集約をしました。賛成、反対で意見が割れ、暗礁に乗り上げました。旧民主党のように延々と議論するやり方もありましたが、多くの議員は執行部に一任して退席し、残った議員だけで膝詰めで議論しました。私からは「自分の言いたいことは半分、残り半分は相手のことを聞いてくれ」と訴えました。1時間で収束し、法案提出につながりました。
何が言いたいか。基礎的な意見集約の作法をたたき込むことで、左派の内ゲバやリベラル同士の妥協しがたい文化を乗り越えられる可能性があるということです。結局はリーダーの問題なんです。
では、小川氏はどうリーダーを目指すのか。映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」のラストシーンでは、大島監督から「総理を目指すのか」と問われ、「それを目指さないなら今すぐ議員辞職する」と語った。では、どうやって? まずは政治のあり方を変えたいと小川氏は言う。
岡田 映画を観て、聞きたいことがあります。
小川 申し訳ないのですが、実は、私は観ていないんです……。
岡田 そうなの?
小川 大島新監督の奥さんが私と同級生という縁で、17年前にテレビのドキュメンタリーで取材に来て、映像を取りためていました。作品にしたいというので「お任せします」と伝えました。制作、編集には一切、関わっていません。大島監督の思いに手垢をつけたくありませんでした。
岡田 映画を見た人は疑問を抱くのではないでしょうか。果たして小川さんは本当は何と闘っているのだろうか、と。
小川 いい質問だと思います。
岡田 政治家には、選挙、党内、院内(国会内)の三つの闘いの場がありますが、さらにもう一つあります。昔の政治家、三木武吉は「誠心誠意、ウソをつく」と言いましたが、政治の裏の部分、つまり、寝技やネゴシエーションの世界があるはずです。しかし、映画にはそこが描かれていません。もちろん簡単にはできませんが。
小川 確かに党内には権力闘争や私利私欲の世界があります。どこの世界も同じでしょうが、上司に取り入るのが上手な人、器用な人は出世が早い。だけど、残念ながら、私にはそういう能力がありません。誰にもしっぽを振ったことがない。
岡田 ほう。
人口減少と高齢化、経済の低迷、財政赤字、社会の持続可能性は崩壊しています。古い政治のままでは現状に対応できません。これに舵を取る新しい政治が必要です。そういう政治家を見いだし、厳しく育てる新たな有権者像が必要だと思っています。それが見えにくい。
岡田 新しい政治家像を作ろうと闘っていることは映画からも伝わってきます。しかし、政治に必要なのは「HOW」です。どうやって実現するか。どうやって有権者の意識を変えるのか。
私は小学校のPTA会長になって3年目ですが、地べたからデモクラシーを考えています。対話の技法、作法を考え抜いて、人の心の縫い目に沿って行動し、圧倒的な数の友人を作ることが必要です。小川さんはどうやって仲間を作っているのですか。
小川 そこは私の弱点であり欠点です。飲み歩くことが好きなわけじゃないし、貸し借りを重ねることにも興味がありません。
二つ、言いたいことがあります。自民党の議員は、私にも「食事に行こう」とか、「地元の食パンだからどうぞ」とか、そういった日常のつきあいを大切にします。彼らは選挙が楽です。よほどへまをしない限り、対立候補がよほど魅力的でない限り、選挙に勝ちます。地元の知事、市長、町村長、議会、みんな自民党です。資金集めは私たちより100倍も1000倍も容易。人間的余裕が生まれないはずがありません。
一方、私たちは逆です。選挙は必死の思いで、首の皮一枚でつながって国会に出てきて、出てきても少数派。常に地元の首長や議会からにらまれるというストレスも抱えている。どうやって人間的余裕を持てるのか。これは良いとか悪いとかじゃなくて、置かれている状況が違うと思っています。
もう一つ。では、なぜ、政治家はつるむのか。小泉純一郎氏はかつて「YKK」と呼ばれた山崎拓氏、加藤紘一氏との関係を「友情と打算の二重構造」だと喝破しました。
岡田 和して同ぜず、です。
小川 有権者が政治家に何を望むかを濃縮還元したものが、今の政治家のつきあい方になっています。有権者が政治家に利権と利益を求める限り、政治家はそれによって有権者に奉仕しようとする。だから「打算」の方に傾きやすい。利益や利権の追求が、全体と矛盾しなかった時代が続きました。
でも、これからの政治はそれでは立ちゆかない。まだ明確な答えは見つかりませんが、今までの政治や社会の地殻変動を感じ始めています。今日より明日が良くなると思っている世代にとって、次世代は希望でしかない。でも今の若い人たちにはそう思えない。
岡田 まったくです。
小川 将来世代を食いつぶしながら現役世代が生きているという史上初の時代です。政治家がまずそれを意識し、有権者にもそこにたどり着いてもらわないといけません。
三輪 有権者の耳に痛いことも言えるのですか。
小川 当然です。でも大事なのは、それが何のためかを伝えることです。やたらめったら人間は我慢なんて出来ません。明確なビジョンとリスクを説明し、国民が納得して初めてたどり着けるステージです。そうなると、友情と打算のうち、打算の余地は極めて少ない。政界は、利権や利得ではなく、同じ目的を持った人間関係に作り替えないといけないと思っています。それが私の大きなチャレンジです。
岡田 小川さんのような、田舎のナンバーワン高校を出て東大に行く人間は、小さい頃から、お前は天才、秀才といわれてきました。こういうタイプの政治家は、天下を取らないとふるさとに顔向けできないと思い込んでしまうのです。これは「与党になって総理大臣になれ」というのと逆のことを言っていると受け取られるかもしれませんが、そうじゃない。人々の気持ちを背負って、個人の中央突破をするのではなく、自分が生きている間は、ずっと野党議員かもしれないが、それでも重要な仕事をしているという認識を持たなければならない。苦しいけれど。
本来、そういう野党文化が存在しなければ、議会政治は機能しません。日の当たるところにいくことだけが出世じゃない。総理大臣になる前に、「野党は分厚い仲間をつくれるのか」という巨大な宿題があります。在野としての分厚いエリート層を作ってほしいと願っています。私はまじめに、小川さんに総理大臣になってもらいたいと思っていますから。
*この対談の動画版は以下です。ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」に対する小川淳也衆院議員の思いから始まり、あるべき政治家像、あるべき野党像を巡る激論が繰り広げられています。小川議員が今回の記事には盛り込まれていない自らの政治観を大胆に語っています。臨場感ある肉声での対談をぜひご覧ください。
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