メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

イージス・アショア導入停止問題 安倍首相会見にみる三つの欺瞞

検証なき「責任」、唐突な「安保戦略議論」、中国隠し……ごまかしはもう止めよ

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

拡大米ハワイ州カウアイ島にある米軍のイージス・アショア実験施設=2018年1月。朝日新聞社

 陸上配備型の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備が突如、取りやめになった。ことの発端は6月15日、事情が変わったからという河野太郎防衛相の導入停止発表だ。たたみかけるように3日後、安倍晋三首相が「安全保障戦略の新たな方向性を打ち出す」と記者会見で表明した。めまぐるしい展開の中で見過ごしてはならない三つの欺瞞を、その会見をふまえ指摘しておく。

「責任」を語るなら検証を

 まず一つ目の欺瞞からだ。

 安倍首相の記者会見で改めて感じたのは、この内閣の責任感の希薄さだ。様々な問題で安倍首相が「責任は私にある」と口にはしても、具体的に何も責任が取られないあのモラルの低さがまた露呈した。今回は安全保障政策という国家の根幹に関わる問題だけに、もはや「無責任体制」と呼べる。

 通常国会閉会を受けた6月18日の首相官邸での会見で、安倍首相はアショア導入停止に言及したうえで、こう語った。

拡大記者会見に臨む安倍首相=6月18日午後6時すぎ、首相官邸。朝日新聞社

 「弾道ミサイルの脅威から、国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく。これは政府の最も重い責任であります。我が国の防衛に空白を生むことはあってはなりません」

 そして唐突に「この夏に国家安全保障会議で議論し、安全保障戦略の新たな方向性を打ち出す」と語った。だが、ちょっと待ってほしい。

 イージス・アショアの導入を閣議決定したのは2017年12月だ。北朝鮮の弾道ミサイル警戒に日本海であたる海上自衛隊のイージス艦の負担が、中国の海洋進出などへの対応もあり過重なため、それに代わるものとされた。だが2年半も経って、当初の運用を実現するには想定外の時間と経費がかかることが最近わかった、ということで今回の導入停止となった。

 これから議論をやり直す期間も含めて、結局イージス艦への過重負担がより長く続くことになる。中国の海洋進出も続く中で、全体として「我が国の防衛に空白」を生みかねない事態を招いた責任はどう取るのか。

 また、アショアのそんな欠陥に今さら気づくことがだめ押しとなったが、閣議決定以来の政府の導入への拙速さは目を覆わんばかりだった。国内二カ所の配備先として政府が「最適地」とした秋田県では、候補地の調査をめぐりデータの誇張が発覚。さらに今回の導入停止の背景には、もう一カ所の山口県での運用で安全が確保できるとしていた説明が誤っていたことがある。

拡大政府がイージス・アショア配備の「最適地」とした陸上自衛隊の演習場2カ所

 イージス・アショアは「ミサイル防衛」とはいえ、戦後日本が初めて地上に築く固定式のミサイル発射装置だ。そんな兵器を配備するにはとりわけ地元住民の理解が欠かせないが、今回の導入停止によって政府の説明に対する信頼の回復はほぼ不可能となり、事実上の配備撤回となった。その責任をどう取るのか。

 責任の取り方がわからないなら申し上げる。今回のような失態を繰り返さぬよう、閣議決定から導入停止に至った経緯を検証し、国民に明らかにすることだ。それが、安倍内閣が「安全保障戦略の新たな方向性を打ち出す」ことについて当事者能力を回復するための最低の条件だ。

拡大イージス・アショア導入停止について山口県知事らへの説明を終え、改めて頭を下げる河野太郎防衛相=6月19日午後5時すぎ、山口県庁。朝日新聞社

 ただ、あくまで最低の条件であって、それだけではとても足りない。

 日本の安全保障政策における今回の失態を棚に上げるどころか、それを奇貨として「安全保障戦略の新たな方向性を打ち出す」という議論にすり替えるところが、不誠実甚だしい。今回の失態が安倍内閣に対する国民の不信を広げかねないという感覚が、そもそも欠如している。

 アショア導入を停止し、かつ「我が国の防衛に空白を生んではならない」と言うなら、上記の検証作業と並行してでも、本来はその穴をどう埋めるかの議論を急ぐべきだ。それを超えて「安全保障戦略の新たな方向性を打ち出す」と風呂敷を広げるなら、それ自体が必要な理由を正面から国民に語らねばならない。


筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

藤田直央の記事

もっと見る