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政治家が検察を使って露骨にすべてを支配する 「検察国家化」の悪夢

ロシアの現実を追いかける日本

塩原俊彦 高知大学准教授

 これからときどき、「ニッポン不全」というワッペンをつけて、日本が現在かかえている諸問題について世界の潮流の変化と比較しながら、このサイトにおいて毎月1度ペースで考察してみたいと考えている。そこで最初に、「不全」をめぐる言葉の問題について概説しておきたい。

Insecurityとしての「不全」

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 「ニッポン不全」を英語に訳せば、“Japanese Insecurity”となる。「セキュリティ」(security)という言葉は、ラテン語の“securus”(形容詞)ないし“securitas”(名詞)を語源とし、これらは欠如を意味する“se”(~がない)という接頭辞と、気遣いを意味する“cura”の合成からなっている。

 これらのラテン語は、エピクロスらが人間の到達すべき理想としたギリシャ語の「アクラシア」(合成語で「心が乱されていない状態」を意味する)の訳語・対応語として用いられたものでもある。つまり、「気遣いのない状態」こそを「セキュリティ」とみなすことができる。

 他方、「安全」という日本語は、かなり古くから、たとえば『平家物語』第三巻の「医師問答」で「願はくは子孫繁栄絶えずして(……)天下の安全を得しめ給へ」という形で用いられており、その意味も今日と同様、危険のないこと、平穏無事なこと、である(『日本国語大辞典』)。しかし、この「安全」という言葉は当初、英語のsecurityの訳語としては用いられず、これには「安心」「安穏」などがあてがわれる一方、safetyの訳語として用いられた(ヘボン『和英語林集成』, 1867年)。

 市野川容孝の調べでは、1884年の『明治英和辞典』で初めて(safetyと同時に)securityの訳語として「安全」が登場した。Safetyとsecurityの両方に対応できるドイル語のSicherheitに対しては、すでに1872年の『和訳独逸辞典』で「安全」という訳語があてられている。

 この“security”を接頭辞“in”で否定したのが“insecurity”だ。すなわち、「気遣いのない状態の否定」を表すわけだから、「不安定な状態」や「不安(感)」を意味していることになる。21世紀に入って、世界中にこの“insecurity”が広がり、まさに「気遣いのない状態の不在」が懸念されている。こうした時代のムードをつくり出しているのは、2001年9月11日以降のテロリズムへの「恐怖」だろう。主権国家の常備軍たる武力だけでなく、少数の反動勢力による暴力にも気遣いする必要性が痛感されたところに“security”の重要性が高まったと考えられる。

 気遣いと安全の関係に着目すると、「気遣いがあるから危険が立ち現れるのであり、また、危険が見出されるから、それへの気遣いが求められる」ということになる。別言すると、安全を脅かす危険に対して、それを除去・否定する気遣いを想定すればするほど、その気遣いは“security”の強化を促すから、つまり、その気遣いの対象は「無限」に想定できるので、“security”の強化も際限なくつづく。気遣いを再帰的に繰り返し継続することがもはや停止できないほどに“security”の強化を当然視するような風潮がみられようになると言えるのではにないか。

 もっと厳しく書けば、こうした根拠のない心配を喧伝することで政府内部やその周辺に得をしようとする人物が隠れているのではないかと思われる。

 この“insecurity”への傾斜は、本当は、軍事にかかわる領域だけにみられるわけではない。トニー・ジャットという歴史家は、2010年に刊行したIll Fares the Land(日本語訳『荒廃する世界のなかで:これからの「社会民主主義」を語ろう』みすず書房)のなかで、「われわれはinsecurityの時代に突入した」と指摘している。そこには、「経済不全」(economic insecurity)、「身体不全」(physical insecurity)、「政治不全」(political insecurity)がある。これらの“insecurity”は人々に恐怖の感情を呼び起こし、それが近代国家を支えてきた信頼と協力に基づく市民社会の基盤を侵食していると指摘している。

いま日本で密かに進む「検察国家化」

 「ニッポン不全」の第一回として取り上げたいのは、「政治不全」にかかわる「検察」の問題だ。検察官の定年を引き上げる検察庁法改正はいったん、断念されることになった。しかし、政治家が検察に「手を突っ込む」

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