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コロナ禍が「新しい価値観」を生み出す/保坂展人×涌井史郎

保坂展人 東京都世田谷区長 ジャーナリスト

大人への不信感

保坂 米国ミネアポリスでジョージ・フロイドさんが警察官に暴行され亡くなり、全米に抗議が広がっています。米国社会は「南北戦争とは何だったのか」というところにまで立ち戻り、リー将軍の肖像を置いておくのはどうなのかという議論がわきあがりました。英国では17世紀に奴隷商人として財をなしたエドワード・コルストンの銅像が引き倒されました。

 権力者の銅像が引き倒されるような光景は、冷戦崩壊後の東欧や2005年のイラク戦争後にみられましたが、今回は歴史的な時間軸がすこし長い。黒人のひとりひとりが売り買いされていた歴史、リンカーン大統領の時代、奴隷制度の廃止を巡って闘った南北戦争の評価が米国社会で煮えたぎるほど議論になっているのです。

 そして「コロンブスは英雄だったのか」というところまで議論は来ている。日本の学校でもコロンブスが新大陸を発見したと習いますが、そうした「征服史観」を覆そうという動きです。スペイン人が軍事力というよりは感染症の脅威を背景に先住民の多くを感染させてしまうことで、南米を支配していく歴史が注目されています。

 私は若い頃、米国の先住民に語り継がれている物語、戒律、儀式に触れる機会がありました。海や山や大自然の神から命をいただく、感謝と祈りと共に命を返していく循環的な世界観が先住民にはありました。日本では北海道白老町に国立アイヌ民族博物館と共に「民族共生象徴空間(ウポポイ)」が開館するタイミングです。コロナ禍は人類史の振り返りを迫っているのです。

拡大「ウポポイ」内覧会の屋外ステージで披露されたアイヌ舞踊=2020年6月9日、北海道白老町

涌井 明晰な分析です。1854年に米国14代大統領フランクリン・ピアースに対してシアトル大酋長が出した手紙の写しが手元にあります。「ワシントンの大酋長が土地を買いたいと言ってきた。どうしたら空が買えるというのか。どうしたら大地を買えるのか。私には分からない。風の匂いや水のきらめきをあなたはどうやって買おうというのか」と書き出している。

 豊かさとは経済力ではない。自分が生かされている環境をいかに大切にするのか、そこに豊かさの本質があります。先住民はそうした認識を持っていました。

 産業革命以降、人類はお金を豊かさの尺度にしてきました。このコロナ禍のもとでも、世界の人々が格差の矛盾に気づいたにもかかわらず、株価はどんどん高値を更新しています。異常な事態です。巨万の富をもっている一握りの人はお金を右から左に動かせば富み続けるというおかしな状況が露呈しているのです。ここでどう価値観を転換させるかが非常に大事です。

保坂 今年11月に米大統領選があります。トランプ大統領は非常にわかりやすい。50年前、100年前の米国の価値観、白人中心の偉大な米国であり続けたいという価値観をそのまま具現しています。一方で、サンダースを支持した若者たち、今回の抗議デモに参加した若者たちは決して黒人ばかりではない。白人の若者の姿もけっこうあります。多様な宗教や人種や言語を超えて差別のない社会をつくる、つくりたいという若者たちの強い意志を感じます。コロナ禍とジョージ・フロイドの犠牲と引き換えに出てきた新しい価値です。

涌井 米国の若者たちが訴えているのは「平等」といういちばん大きな権利です。誰もが自分が幸福であるための努力を妨げられないという権利です。これは、スウェーデンのグレタさんが気候変動問題で訴えた「大人への不信感」と共通しています。自分たちの世代が幸福を希求する権利を奪われないのかいう危機感を若い世代は共有しているのです。個を尊重し多様性を認める。コロナ禍の記憶を共有したことが、新しい価値観の醸成につながっています。

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筆者

保坂展人

保坂展人(ほさか・のぶと) 東京都世田谷区長 ジャーナリスト

宮城県仙台市生まれ。教育問題などを中心にジャーナリストとして活躍し、1996年から2009年まで(2003年から2005年を除く)衆議院議員を3期11年務める。2009年10月から2010年3月まで総務省顧問。2011年4月より世田谷区長(現在3期目)。 著書:「相模原事件とヘイトクライム」(岩波ブックレット)、「脱原発区長はなぜ得票率67%で再選されたのか?」(ロッキング・オン)、「88万人のコミュニティデザイン 希望の地図の描き方」(ほんの木) 近著に「〈暮らしやすさ〉の都市戦略 ポートランドと世田谷をつなぐ」(岩波書店2018年8月)、「子どもの学び大革命」(ほんの木2018年9月)他

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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