松本佐保(まつもと・さほ) 名古屋市立大学人文社会学部教授
慶応義塾大学大学院修士課程修了。英国ウォーリック大学大学院博士課程修了(PhD)。現在、名古屋市立大学人文社会学部教授。専門は国際政治史(英米、イタリア、バチカン政治・外交・文化史)。著書に『熱狂する「神の国」アメリカ』(文春新書)、『バチカン近現代史』(中公新書)など。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
聖書を片手に教会前でポーズを取ったトランプのパフォーマンスの効果のほどは
5月末、ミネアポリス近郊で黒人ジョージ・フロイドが白人警察官よって押さえ付けられて死亡した事件を発端に、全米で反人種差別デモや暴動が広がっているのを受け、トランプ大統領は米国時間6月1日夕方、ホワイトハウスを徒歩で出ると、広場を挟んだ向側のセント・ジョーンズ教会に行き、聖書を片手に教会前で報道陣の前でポーズを取った。
これについて報道は、「治安回復」をアピールしたとしたが、その直前、広場にいた平和的なデモ参加者は、催涙弾で強制排除された。
クオモ・ニューヨーク知事からは「聖書は読むもの」と揶揄(やゆ)され、ワシントン教区のマリアン・ブッディー司教は「大統領の行動は、悲しむ国民に対して扇動的で、教会は平和的な抗議という神聖な行いを通じ、犠牲者に正義を求める人々の側に立つ」と非難。カトリックのジェームズ・マーティン神父も、国民に対して軍を出すと脅しながら聖書を振りまわすのは、「聖書や神を小道具扱い」と糾弾した。
これに対してトランプの重要な支持基盤である、キリスト教福音派のカリスマ牧師フランクリン・グラハムは、「大統領はこの教会に行くのに相応しい、聖書を掲げた真のクリスチャン」ともちあげた。トランプは4年前の大統領選の時も「聖書が愛読書」と公言したが、聖書の一節の引用を間違えるなど、その信仰心については疑問視されている。