聖書を片手に教会前でポーズを取ったトランプのパフォーマンスの効果のほどは
2020年06月23日
5月末、ミネアポリス近郊で黒人ジョージ・フロイドが白人警察官よって押さえ付けられて死亡した事件を発端に、全米で反人種差別デモや暴動が広がっているのを受け、トランプ大統領は米国時間6月1日夕方、ホワイトハウスを徒歩で出ると、広場を挟んだ向側のセント・ジョーンズ教会に行き、聖書を片手に教会前で報道陣の前でポーズを取った。
これについて報道は、「治安回復」をアピールしたとしたが、その直前、広場にいた平和的なデモ参加者は、催涙弾で強制排除された。
クオモ・ニューヨーク知事からは「聖書は読むもの」と揶揄(やゆ)され、ワシントン教区のマリアン・ブッディー司教は「大統領の行動は、悲しむ国民に対して扇動的で、教会は平和的な抗議という神聖な行いを通じ、犠牲者に正義を求める人々の側に立つ」と非難。カトリックのジェームズ・マーティン神父も、国民に対して軍を出すと脅しながら聖書を振りまわすのは、「聖書や神を小道具扱い」と糾弾した。
これに対してトランプの重要な支持基盤である、キリスト教福音派のカリスマ牧師フランクリン・グラハムは、「大統領はこの教会に行くのに相応しい、聖書を掲げた真のクリスチャン」ともちあげた。トランプは4年前の大統領選の時も「聖書が愛読書」と公言したが、聖書の一節の引用を間違えるなど、その信仰心については疑問視されている。
トランプの手に持っていた聖書は、リンカーンの聖書のレプリカで、オリジナルは、ワシントンの「聖書博物館」にある。
聖書博物館は、実は2017年11月17日、つまり比較的最近、トランプ政権誕生後に開館した。開館式にはペンス副大統領が来賓として参列し、テープ・カットを行ったことでも話題になった。トランプ政権内の人物とキリスト教等宗教団体や保守系シンクタンク関係者のイベント会場としても使われ、著者も今年2月の「全米朝食の祈りの会」のサイドイベントに参加した。
歴代の大統領が宣誓式で必ず聖書に手を置き、誓いを述べるなど、米国では政治と宗教の距離が近いが、特にトランプ政権ではそうした立場を強調してきた。「聖書」の存在が有効な秩序回復の有効な道具になりえると考えられても不思議ではない。
セント・ジョーンズ教会は、リンカーンやルーズベルト大統領など歴代の名だたる大統領が通った教会で、リンカーンの聖書同様にトランプはあやかる意図だろうが、米聖教会派のプロテスタント主流派で、福音派とは異なる立場にある。特に1980年代以降はよりリベラルで、例えば中絶問題で女性の選択権を認め、LGBTに寛容で女性や同性愛者の聖職者もいる。また、人種では包括性を強調、中絶や同性婚に強固に反対し、白人中心的な福音派とは対立することもあり、政治的にもどちらかと言えば民主党寄りに近い。
こうした理由からか、トランプはこれまでこの教会に足を運んだことはなく、今回初めてこの教会の前でポーズを取った。この教会の牧師は「大統領は一度も我が教会に来て、礼拝に参列したことがない」と暴露した。
では、武力よりも聖書のほうが、米国での反人種差別デモや暴動に対する秩序維持の手段になり得るうるものか。
トランプ大統領は治安維持のために、武力の投入を辞さない構えで、軍隊に召集をかけていた。これをめぐり、トランプと国防省、抗議デモ、メディアの間で大論争を繰り広げられた。
マティス前国務長官は、トランプの対暴動への軍事使用の可能性を批判した。エスパー国防長官も、全米各地で起きている人種差別への抗議デモが暴動に発展している問題に対して、連邦軍を動員に反対の立場を明言した。エスパー国防長官の更迭も囁かれた。
米軍制服組トップであるマーク・ミリー統合参謀本部議長は、このホワイトハウス前のセント・ジョーンズ教会前でのトランプ米大統領の写真撮影に同行し、写真がメディアに使われたことで、誤解を与えたと釈明し謝罪した。彼が教会に向かうトランプに迷彩服を着て同行したことが、「米軍が国内政治に関与し、
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