松下秀雄(まつした・ひでお) 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長
1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。22年9月から山口総局長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
記憶に刻もう、「私たち」を解放するために
米国で、白人警察官によって黒人男性の命が奪われ、“Black Lives Matter”(黒人の命は大切だ、黒人の命も大切だ……)と訴える抗議行動が広がっている。
日本はどうだろう。
日本でも、出自を理由とする差別は根強く残っている。ただ、ここでは肢体に重い障がいがある、ある女性の闘いを手掛かりにしたい。三井絹子さん(75)は「知る人ぞ知る」人なのだけれど、私は昨年、ようやくその足跡を知って、びっくり仰天してしまったのである。
立てない体で1年9カ月も座り込み、言葉が出なくても声を上げ続け、「あたりまえに生きる」ために闘ってきた。決してあたりまえじゃない、強い意志をもって。
これって、公民権運動みたいだな。
私はそう感じた。
1950~60年代に高揚した米国の公民権運動は、人種差別や人種隔離政策をなくすための闘いだった。三井さんたちも長年、差別や隔離に抗ってきた。
そうであるなら、公民権運動の母と呼ばれる故ローザ・パークスが米国で広く知られているように、三井さんたちの運動も広く記憶されるべきだろう。闘いの歴史を記憶することは、次に続く人たちが、理不尽に対して立ち上がる糧となる。
三井さんは先日、参考人として国会に招かれ、その体験や、地域でともに生きることの意味を語った。まずは、その話から始めたい。
「怒り」を訴えたれいわ・木村英子参院議員は何を伝えたかったのか(下)