メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

ある女性の「あたりまえに生きる」闘いと“Black Lives Matter”の関係

記憶に刻もう、「私たち」を解放するために

松下秀雄 「論座」編集長

お風呂に入るのは「大それたわがまま」か

参議院国土交通委員会に出席する三井絹子さん(中央)=2020年5月28日、東京・永田町拡大参議院国土交通委員会に出席する三井絹子さん(中央)=2020年5月28日、東京・永田町

 5月28日、参議院国土交通委員会。三井さんはまず、文字盤の1文字1文字を指さして、あいさつした。

 こ、ん、に、ち、は。こんにちは。みついきぬこ、で、す。こんにちは三井絹子です。

 文字を読み上げる介助者。うしろに立って頭を支える人もいる。そうしないと首がうなだれてしまい、前を向くことがかなわない。

 あいさつのあとは、あらかじめ用意していた文章に移った。文字盤の会話を続けるには、およそ15分の質疑時間はあまりにも短すぎるからだ。

 まずは、コロナ緊急事態宣言のもとで受けた差別について。

 私は団地住まいで、お風呂場は狭くて段差もあり、私と介護者3人ではとても入れません。そしてお風呂に入れないと、毛穴が詰まって熱がでてしまうんです。

 私はふだん、市内の温泉にいっています。でも、その温泉が休業になってしまった。唯一あいている銭湯がありました。私は2週間、お風呂に入れていなかったので、喜び勇んで入りにいきました。しかし、入店拒否をされました。

 ああ、またお風呂に入れなくなっていたのか。入浴って壁が高いんだな……。

 私は昨年暮れ、三井さんの半生を描く『絹子ものがたり』という劇をみた。東京都国立市の人権週間事業として催され、三井さん一家や、かかわりあってきた人たちが出演したこの劇の中で、市内の温泉に入れるようになるまでの経緯に触れていた。入浴用の車イスを使って洗い場に入ることが認められず、ビラをまいたり、議会に陳情したり、シンポジウムを開いたりして6年間も運動を続け、2017年にようやくかなったばかりだった。

 その温泉が緊急事態宣言下で休業し、別の銭湯でまた壁につきあたる。しかし、市職員らも動き出し、話し合いを繰り返したのちに入浴が認められた。

 いまは、地域のみんなと一緒に入ることが実現しています。でも、ここまでしないと入れないのも事実です。地方の温泉にいっても、必ず入店拒否を受けます。(障がい者)差別解消法の話をしても、「そんなものは通用しない」と幾度となくいわれてきました。そんなに通用しない法律って、なんなんでしょう。

 私は地域のみんなと同じように権利が守られていくことを常に希望しています。これは決して大それたわがままな要求ではないと、みなさんにわかっていただきたいのです。

 お風呂に入りたい。地域のみんなと同じように、あたりまえに生きたい。三井さんは、それが「大それたわがまま」とみなされてしまう現実と闘ってきた。

参議院国土交通委員会に出席する三井絹子さん(左から2人目)、赤羽一嘉・国土交通相(右)ら=2020年5月28日、東京・永田町拡大参議院国土交通委員会に出席する三井絹子さん(左から2人目)、赤羽一嘉・国土交通相(右)ら=2020年5月28日、東京・永田町

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

松下秀雄

松下秀雄(まつした・ひでお) 「論座」編集長

1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。

松下秀雄の記事

もっと見る