2020年07月05日
ミッション:5分間で、国語、数学、英語の15個の問題を解きます。が、間違いは、少なくとも1つまで! 場合によっては、1つ間違えれば不合格となります。
親が子どもの勉強や受験にまつわる様々な手続き、準備などに手をかけなくてはならない「お受験」。私には遠い世界の話だと思っていた。しかもこの教育熱の高い韓国でそれを経験する羽目になるとは、自分でもビックリだ。しかも、「ミッション」って、一体何?
じゃあ、お受験なんてさせなければいいじゃない。となるが、ごもっともで、それは紆余曲折あり、思うところありで、二回に分けて書こうと思う。
今日は、お受験に挑戦することになって知った、韓国の中学受験事情に少し触れてみようと思う。
アメリカ50%、日本60%、韓国90%。
この数字は、概算で表した大学進学率であるが、数字を見ても韓国ではいかに大学が重要なのかが分かる。だからこそ、韓国では、大学の差別化、ランキングにみんな敏感なのだと思う。
しかも大学の話題になると「in Seoul」という言葉が出て来るが、文字通りソウルにある大学のことを指し、保護者らは皆「in Seoulに入ってほしい」と願っている。
私の感覚では、一昔前、釜山(プサン)大学、慶北(キョンブク)大学など、いくつかではあるが地方の国立大学はまだブランドであったような気がする。先日、高校の教師と話した際、首を横に振りながら「今は絶対ソウルです」と断言され、子を育てる親としてかなりズシッときた。
「SKY」という言葉もある。そう「空」。空のように雲の上の存在、それが「S:ソウル大学、K:高麗(コリョ)大学、S:延世(ヨンセ)大学」だ。何でも受験生の上位5%内に入らないとSKYは無理だとか。恐ろしい世界である。
振り返れば、韓国で子どもを育てることになり、韓国社会の教育熱やお母さん達の情報戦争、いや、周りの上昇志向に、私自身日々気後れしていた。が、その反面、思った事を躊躇せず口にしたり、自己主張が強かったり、ユーモアのある話し方をしたり、日本とは違う韓国社会にもまれながら、私の子どもたちも少し押しの強い人間になってくれることを願っていた(『思った事をすぐ口にする韓国の「伸びしろ」』参照)
それは、私の人生を振り返る時、自分がもう少し押しが強かったらと、つまり、もう少し自己主張が上手だったらと、思う事がよくあったからだ。
海外で自分のアピールをしなければならなかったり、日々の暮らし、そして勝負に出たりする際、簡潔で説得力のある言葉使いはもちろん、ユーモアやジェスチャーなどなんでも使って、自分の言う事にまず耳を傾けさせなければならない。印象付けさせなければならない。存在すらないような影の存在になっては、せっかく海外に出てきた意味がない。
韓国語ができても、韓国語で上手にコミュニケーションを取るのとは別問題なのだ。
そう、話を戻して「お受験」。
韓国では、中学受験をする際、筆記試験を課さないということになっている。限りなく加熱する受験競争から小学6年生を少しでも解放してやろうとする政府の措置ともとれる。
と・こ・ろ・が、である。
冒頭に述べた「ミッション」。これは、募集要項などには「面接」となっている。つまり、面接という名の下の試験で、さらにその面接のやり方が、私には想像をはるかに超えるものであった。
受験生は面接の前に「待機室」に入らなければならないのだが、それが難関である。待機とは名ばかりで、そこで、国語、数学、英語の15個の問題が書かれた紙が渡される。そして5分間、一斉にそれらを解く。答えは用意してある一応メモとみなしている別紙(白紙)に書き、「待機」終了の合図とともにその別紙だけを持ち退室。そして一人ずつ面接室へと呼ばれる(面接室はいくつか用意してあるらしい)。面接室に入り、その自分が用意したメモを見ながら「一番の答えは〇〇です。二番の答えは〇〇です…」と、与えられた3分間で答えを口頭で伝える。学生からの質問は受け付けない。答えを言い終わったら、そのまま3分が経過するまで待つ…。
この「面接」。筆記試験よりよっぽど難しい。
ちょっと、想像してみて下さい。5分間で15問ということは、1分で3問題、ということは、20秒で1問ですよ! 20秒で1問なので、まず考えさせられる問題、或いは、分からない問題がでたら、もうアウトです。なぜなら合格する学生は、ほぼこの「面接」は100点ということですから。緊張などしてる場合ではなく、機械的に問題を解き、問題に対する知識はいわずもがな、この問題に対する要領を訓練していなければ、すでに不合格と同じなのです。
問題の難易度自体は、範囲は広いものの基礎的な問題なので、せめて20分の時間さえあれば誰でも100点近くはたたき出すと思う。しかし、そこが問題なのではないのだ。要は要領なのだ。
そう、このように、私はこの待機室での5分間を一番の強敵に思っていた。しかし、さらなる強敵があった。それこそが、韓国のママたちであり、情報戦だ。
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