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コロナが背中を押すジョブ型という「自立した自分」への第一歩

ウイルスが我々に問いかけているもの(6) 雇用形態

花田吉隆 元防衛大学校教授

拡大新型コロナウイルス対策のテレワークで閑散としたオフィス=2020年3月17日、東京都千代田区、志村亮撮影

 ドイツでは、休日には近くの公園や林を散歩することが最大の余暇だ。これに対し、長期休暇の場合は旅行で、ドイツ人はこれを唯一の楽しみに一年の労働に耐える。ドイツの夏は短い。7月ともなれば、多くの人が旅行に出かけ町は閑散となる。店には「休暇中」の紙が貼られ、営業休止が宣言される。驚くのはその期間の長いこと。通常1カ月、中には2カ月に及ぶところさえある。店は平日、夕方6時に閉店、土曜午後と日曜は休みだ。欧州に行くと、土日は駅の売店しか開いておらず買い物に困った経験がある人が多くいるはずだ。いったいいつ働くのか。そう思いつつも、労働と余暇を峻別する姿勢には恐れ入る。

 日本で就業形態の転換が言われる。いわゆる、日本伝来のマネージメント型からジョブ型への転換。1947年労働基準法に基礎を置く労働形態を抜本的に転換しようという。マネージメント型とは、新卒一括採用、終身雇用、年功序列、時間制労働であり、ジョブ型とは、成果主義、達成目標設定と到達割合評価、能率給、能力に応じた昇進を柱とする勤務形態をいう。

非正規雇用の増加による、企業と従業員の関係の変化

 雇用形態を見直す契機となったのが90年代のバブル崩壊だ。企業が大量の正規雇用を抱えきれなくなった。今や非正規雇用は4割弱にもなる。いうまでもなく非正規雇用に雇用保障はない。同一労働同一賃金が叫ばれながら、実態は、非正規雇用は、企業にとり不況期に向けたショックアブソーバーだ。

 日本経済における非正規雇用の増加は、企業と従業員の関係を決定的に変えた。それまで太い糸で強固に結ばれていた両者の関係がプッツリ切れた。それはそうだ。企業は従業員の雇用を何が何でも守ろうというのでなく、従業員が非正規の場合、これを容赦なく切り捨てるというのだから。逆に、非正規の従業員から見れば、もはや、企業は何が何でも忠誠を尽くす対象でない。企業と従業員の関係の変化は、日本の企業風土を根本から変えた。マネージメント型からジョブ型への転換とは、企業にとり従業員に対する手厚い対応はもうできない、これからは、従業員は従業員で自分たちでやってくれ、との宣言でもある。

 こういう流れの中にコロナが登場した。コロナがこの転換を後押しする。テレワークの広がりは、単に働く場所の変化だけでない、企業と従業員の関係、更には従業員側の意識変化をももたらそうとしている。

 都心のオフィスに出社せず、自宅のパソコンを相手に仕事ができる。人々がこれに気付いたことは画期的だった。内閣府によれば、コロナ禍の中、テレワークを経験した人の割合が34.6%(東京55.5%)に上るというが、そのうちの6割は今後もテレワークを続けたい意向という(日本生産性本部調査)。


筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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