メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

安倍「一強」が終焉、混迷期に入る日本政治。「ポスト安倍」は? 総選挙は?

隠されていた現実をあぶりだす新型コロナ危機。ざわつき始めた自民党

星浩 政治ジャーナリスト

首相官邸に入る安倍晋三首相=2020年6月26日午前9時54分

 新型コロナウイルスの感染拡大による危機は、隠されていた現実をあぶりだす。安倍晋三首相による「一強」政治は、危機への対応策が整っておらず、政策的な成果も乏しいことを露呈した。長期政権に伴う腐敗も表面化してきた。権力に安住してきた自民党は、新総裁選びと衆院の解散・総選挙をにらんで、ざわつき始めた。

 日本政治は「一強」支配から混迷期に入る。

官僚の忖度と官邸主導人事がいびつな形で合体

 2012年に発足した第2次安倍政権は、大規模な金融緩和を軸とした経済政策「アベノミクス」を展開。円安、株高を実現して、高い支持率を維持した。外交では日米同盟の再構築を進め、「安定感」をアピールした。

 政権運営としては、中央省庁の幹部人事を首相官邸直轄の内閣人事局が取り仕切り、霞が関ににらみを利かせた。多くの官僚人事はそれまで、各省庁の事務次官を中心に決められてきたが、安倍政権になってから、人事権は実質的に菅義偉官房長官と安倍首相に握られた。官僚たちは官邸の顔色をうかがうようになった。

 官僚たちの間では、官邸の意向を先回りして考慮する「忖度」の空気が醸成されてくる。それが典型的に表れたのが、森友学園への国有地払い下げをめぐる疑惑である。

 安倍首相の夫人昭恵氏が森友学園の理事長夫妻と懇意にしていたため、払い下げ交渉の記録には昭恵氏の名がしばしば登場した。しかし、当時の佐川宣寿・財務省理財局長は国会で「交渉記録はない」と明言。この答弁に合わせて、近畿財務局に保管されていた交渉記録の公文書は改ざんされた。改ざんに抵抗した財務局の職員は自殺に追い込まれ、佐川氏は国税庁長官に抜擢された。

 官僚が官邸の意向に沿うような対応を進める。国会では安倍首相を守る答弁を繰り返す。忖度と官邸主導人事がいびつな形で合体し、公文書管理など民主主義の根幹が傷つけられた。

 首相主催の「桜を見る会」をめぐっても、安倍首相の後援会メンバーが、特別の枠で約800人も招待されていたことが判明したが、担当の内閣府は参加者名簿をシュレッダーで処分したという。メンバーたちは東京観光のツアー旅行の一環として参加していた。首相の周辺から、この公私混同に苦言を呈する動きはなく、長期政権の「おごり」が浮かび上がる。

限界が見え始めたアベノミクス。外交も進展せず

 安倍首相は政権復帰後、2013年、16年、19年の参院選と、14年、17年の衆院選で勝利し、政権を維持してきた。消費増税の延期や増税分の使途変更などを争点に掲げ、森友疑惑などを追及する野党の攻勢をかわした。自民党総裁選は、15年は無投票、18年は石破茂元幹事長との一騎打ちだったが、勝利して、長期政権を維持した。

 しかし、19年の参院選では、自民・公明の与党で過半数という勝敗ラインはクリアしたものの、参院での“改憲勢力”が三分の二を下回り、安倍首相の掲げる憲法改正は当面、困難になった。18年総裁選を経て、総裁の任期が残り3年となったこともあわせ、政権の勢いは弱っていた。

 政策面では、アベノミクスの限界が見え始めた。株高でも景気回復の実感は広がらない。成長戦略は何度も打ち出されたが、生産性は向上しない。社会保障の抜本改革も進まなかった。

 外交でも、安倍首相が「最優先」としてきた北朝鮮による拉致問題は進展せず、ロシアとの北方領土問題では、安倍首相が事実上、2島先行返還に舵を切ったのに、ロシア側は歩み寄る姿勢を見せなかった。頼みのトランプ米大統領も、再選に黄信号が点灯してきた。

共同声明署名式で握手を交わす安倍晋三首相(左)とトランプ米大統領=2019年9月25日、ニューヨーク

行き詰まった政権を直撃したコロナ危機

 行き詰まりを見せていた安倍政権をコロナ危機が直撃した。中国・武漢から広がった感染に対して、日本の水際対策は出遅れた。4月に予定されていた習近平・中国国家主席の訪日への影響を考慮し、「中国からの入国制限措置に踏み切るタイミングが遅れた面は否定できない」と日本政府関係者も認める。

 感染が拡大する中で、PCR検査が進まない点も医療関係者から批判された。医師や看護師ら医療関係者の奮闘もあって、欧米や南米のような感染拡大や死者の増加は食い止められたが、医療体制の不備も目立った。

 政府は経済対策として補正予算案の編成を進めた。当初は、安倍首相と岸田文雄・自民党政調会長が主導し、収入が激変する家庭などに最大30万円を給付することを決めた。だが、二階俊博・自民党幹事長や公明党が反発。急きょ、方針を変更し、国民全員に一人あたり10万円を給付することになった。

 いったん閣議決定した補正予算案が撤回され、新たに決定しなおすという前代未聞の事態となった。二階幹事長と公明党が反旗を翻せば、

・・・ログインして読む
(残り:約2629文字/本文:約4618文字)