山口二郎(やまぐち・じろう) 法政大学法学部教授(政治学)
1958年生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学法学部教授を経て、法政大学法学部教授(政治学)。主な著書に「大蔵官僚支配の終焉」、「政治改革」、「ブレア時代のイギリス」、「政権交代とは何だったのか」、「若者のための政治マニュアル」など。
神津里季生・山口二郎の往復書簡(6)民主主義における市民と政治の本来の関係性とは
医学者で山梨大学学長の島田眞路氏は、「検査陽性者が重症者に偏り、感染者数のピークアウト後も死亡者数がピークアウトしない日本特有の現象も起きた。誰も自分が間違ったとは言わない。この国には頑なな無謬主義と浮ついた自画自賛が蔓延している」(『サンデー毎日』6月11日)と喝破しています。
本来の「政治主導」は、官僚が持つ、こうしたプロクルステスの発想を打破するものでなければなりません。
定額給付金や持続化給付金について、政治家は金に糸目をつけずに国民を支援するという積極的な姿勢を示しました。そのこと自体は評価したいと思います。しかし、定額給付金の支給作業については、経産官僚の“悪知恵”を放置し、中小企業の救命策さえ、利権の材料にされています。数字を大きくすることでやったふりをしていると言われても仕方ありません。
政治家や官僚がやったふりで許されるのは、彼ら、彼女らが人々の声を聞いていない、窮状を見ていないからです。
もっとも、昔から為政者とは進んで聞こうとする人々ではありませんでした。人権も労働や福祉に関する政策も、欠乏に苦しむ当事者が声をあげることによって、為政者を聞かざるを得ない状況に追い込んで、少しずつ実現してきました。
この往復書簡を続けているさなかの5月末、アメリカでは黒人男性が警察官の暴力によって殺されるという時間が起こりました。これに対する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の生命を軽んじるな)」の抗議運動は、全米各地はもとより、日本を含む世界中に広がりました。人間の尊厳を守るために立ち上がらなければならないという市民のエネルギーは感動的でした。
この間、外国のニュースでよく聞かれたのは、「声を聞かせる(make voices heard)」というフレーズでした。
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