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コロナが揺さぶるラテンアメリカ社会の安定

花田吉隆 元防衛大学校教授

ファベーラの住民が頼るのは自然治癒だけ

 住民はその日暮らしで、コロナがあろうと「稼ぎ」をやめればたちどころに明日の飯に困る。稼ぎといっても、まともな仕事があるわけではない。日雇いはいい方で、多くが犯罪と紙一重だ。

 その中で、最も手っ取り早い稼ぎが「車の窓ふき」だ。ブラジルで交差点に差し掛かり信号待ちで停まると、途端に子供が四方から駆け寄ってくる。手に持ったペットボトルの洗剤を車の窓に吹きかけ、ゴムの洗剤拭きで一撫でする。これで仕事は終わり。ドライバーはやむなくポケットから小銭を渡すが、そうしなければ車を傷つけられるからやむを得ない。交差点は体のいい関所になっていて、「通行税」の支払いなしに通れない仕組みだ。ファベーラの住民に外出自粛ほどそぐわない言葉はない

 そういうところに医療機関があろうはずもない。コロナになろうがどうしようが、住民が頼るのは自然治癒だけだ。

大統領というもう一つの感染拡大要因

 かくて、住環境、勤務環境、医療事情の3つにおいて、ブラジルには感染が広がる理由がある。これに加えて、ブラジルには大統領という感染拡大のもう一つの要因がある。ポピュリストのジャイール・ボルソナロ大統領は「コロナは単なる風邪」と言って憚らず、「経済活動の手を緩めるな」と叱咤激励する。感染現場を目の当たりにする全国の知事はこれに反発し、営業再開には及び腰だが、大統領は気にする様子もない。

 ボルソナロ大統領にとり、経済再建は至上命題だ。2014年から16年のジルマ・ルセフ元大統領がブラジル経済をダメにした。ボルソナロ大統領はこれを再建するといって大統領に当選した。幸い、パウロ・グエデス財務相の存在もあり、経済改革に一定の成果を上げてきた。その改革を更に進めようとした矢先、今度はコロナに襲われた。大統領は、「コロナ程度」で経済を失速させるわけにはいかないという。「大衆迎合」政治家は大衆の支持の上に成り立つ。どこでも、自らに対する支持には敏感だ。しかし、

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筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。

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