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日本をベラルーシにしてはならない

権力にとりつかれたトップが、いかに困った事態を招くか

塩原俊彦 高知大学准教授

 8月9日にベラルーシ大統領選が迫っている。といっても「遠くて遠い国」ベラルーシのことを知る日本人は少ないかもしれない。いまの大統領はアレクサンドル・ルカシェンコで、1994年に大統領に当選以来、6回目の当選をめざしている。

 しかしながら、憲法改正や言論弾圧、加えて対立候補者逮捕などによって長期政権を守ってきたにすぎない。国内にロシアの二つの軍事基地をかかえ、2国間に「単一防空システム」を要するため、ルカシェンコはプーチンと結託しつつ、自国での権力基盤を整え、「ヨーロッパの独裁者」とまで呼ばれるようになっている。

 こんな国でいま何が起きているのか。それを知れば、権力にとりつかれたトップによる長期政権がもたらす混乱ぶりがわかる。それは、日本にも相通じるところがある。

拡大ベラルーシのルカシェンコ大統領exsilentroot / Shutterstock.com

「マヌケ」な新型コロナ対策

 ここで、ルカシェンコの「マヌケぶり」をわかってもらうために、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として彼がのべた「迷言集」を紹介しよう。いずれも、ロシアNIS経済研究所の服部倫卓所長が朝日新聞のGLOBE+(「欧州最後の独裁国ベラルーシの奇抜すぎるコロナ対策」2020年4月14日)に紹介したものである。

 「手洗いの回数を増やして、食事を朝昼晩と規則正しく摂るようにしよう。私は酒を飲まない人間だが、最近では冗談で、ウォッカで手を洗うだけでなく、1日に純アルコール換算で40~50グラムのウォッカを飲めばこのウイルスを消毒できるのではないかと言っている。もちろん、仕事中ではないが」

 「諸君、今日はサウナに行きたまえ。週に2~3度でも、効果がある。中国は我々に、このウイルスは摂氏60度で、もう生きられないというアドバイスをくれた」

 まだまだ迷言はつづくのだが、こんな調子だから、諸外国がサッカーリーグ戦を中断していた時期にも、ベラルーシではサッカーが堂々と開催されつづけていた。他方で、「コロナ禍」にあっても、政府は個人にも法人にも何の支援策もとっていない。

 東京五輪や習近平訪日の実現のために国民の命を軽視するだけでなく、「アベノマスク」を国民全員に配布するという「迷案」に自己満足している安倍晋三首相もかなりの「マヌケ」だが、ルカシェンコと比べると、ほんの少しだが、まともにみえてくる。

拡大ベラルーシのサッカープレミアリーグ。2020年5月10日の試合後、FCミンスクの選手の1人がcovid-19に感染したことが判明した。Vera Eremova / Shutterstock.com


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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