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「合憲の敵基地攻撃能力」とは? 世紀またぐ国会論戦にみる曖昧さ

「座して自滅を待たぬ」首相答弁は1956年 真珠湾攻撃から北朝鮮ミサイルまで

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1956年2月、衆院予算委員会での鳩山一郎首相=朝日新聞社

 安倍政権が陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備を撤回するや、唐突に代替案として語られ出した「敵基地攻撃能力」。持つことは合憲だと政府はずっと前から言っているという論法だが、いかにも荒っぽい。世紀をまたぐ二つの国会論戦の曲折を振り返り、前のめりの現状を見つめ直す。

鳩山首相「座して自滅を待たぬ」

 敵基地攻撃能力の保有は合憲だという根拠として持ち出されるおおもとの国会答弁は、鳩山一郎首相による1956年の次のものだ。「座して自滅を待たぬ」というフレーズが、その後よく使われることになる。

わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。(1956年2月29日、衆院内閣委員会。船田中防衛庁長官代読)

 船田防衛庁長官が代読したのは、鳩山首相が別の日程があるとして欠席したためだが、「十分総理大臣と話し合いをしまして」と前置きしている。直近の二人の答弁が食い違って野党の批判を浴び、慌ただしくまとめたものだった。

 当時は敗戦から11年、「戦力の不保持」を記した新憲法施行から9年、主権回復から4年、そして自衛隊発足からまだ2年。当時の国会論戦に、戦後初期の日本の防衛政策をめぐる混沌が見て取れる。

 発端は前年の1955年6月、衆院内閣委員会での鳩山首相答弁だ。保守合同により自民党ができる少し前で、質問したのは自由党の江崎真澄議員。鳩山内閣の前の自由党の吉田内閣で発足した自衛隊を、民主党の鳩山氏が違憲と指摘していたことを突いた。

1954年12月、衆院予算委員会での鳩山一郎首相=朝日新聞社

江崎議員「総理は在野当時に吉田内閣に対して自衛隊違憲論をもってきめつけられた。(いまは)憲法9条を変えず、どんな大きな自衛力でも持ち得るというお考えですか」

鳩山首相「私は3年ほど前には、日本は自衛のためにも憲法を改正しなければ軍隊を持つことができないと申し上げた。その後に自衛隊法ができ、憲法9条(のもとで)は自衛のために必要な限度で兵力を持っていいという主張が議会で通った。憲法はそう解釈するのが適当だと考えを改めちゃったのであります」

 それならと江崎議員が「自衛に必要な兵力」を具体的に問うと、鳩山首相は「お答えする能力がない」。江崎議員が例を出して詰めると、鳩山首相は「おっしゃったように、飛行機で飛び出して攻撃の基地を粉砕してしまうことまでは、今の(憲法の)条文ではできない」と答えた。

船田防衛庁長官との齟齬

 ところが、この鳩山首相の答弁と、翌年の船田長官の答弁が齟齬(そご)をきたす。「座して自滅を待たぬ」の答弁が出る2日前の1956年2月27日、衆院内閣委員会。やはり自衛隊がどこまでできるのかを問う右派社会党の受田新吉議員に対し、船田長官はこう答えた。

1956年4月、衆院内閣委員会での船田中防衛庁長官(中央)。左は重光葵外相=朝日新聞社

受田議員「向うの攻撃を加える方の側の航空機発射基地というようなものが潰滅されざる限りは、正当防衛という目的を達し得ないと思うがいかがか。迎えて討つだけで正当防御が全うできるかどうか」

船田長官「武力行使を行う目的で外国の領土に上陸する海外派兵は、現行憲法における自衛隊にはできないし、またやらない。しかし敵の基地をたたかなければ自衛ができない場合で、他に方法がない場合には、海外派兵とは区別さるべきと存じます。(中略)敵の攻撃が非常に熾烈で、どうしても敵の基地をたたかなければ自分の方が危ない場合にはあり得るけれども、これは海外派兵の問題とは全く別個の観念であると存じます」

 船田長官は「海外派兵」は違憲と明言する一方で、攻撃を放置すれば危険で他に防ぐ手段がない場合は、敵の基地を攻撃できるという考えを示したのだ。

 米国とソ連が対立する冷戦で日本は米側陣営に入ったとはいえ、まだ太平洋戦争での米軍の爆撃機による空襲や原爆投下の記憶が生々しい頃だ。その次の「真珠湾攻撃」をめぐるやり取りが、さらに話をややこしくした。

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