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「ミラーワールド」という未来からを「主権国家本位制」を斬る

塩原俊彦 高知大学准教授

 未来を展望することは、実は「いま」という現在を知ることにつながる。荒唐無稽な将来像がいまという瞬間に不足しているなにかを指し示してくれるのだ。その意味で、「ミラーワールド」と呼ばれる未来について関心をもつことは、将来から現在を観照する視角をもたらしてくれる。過去から現在を観照した、種田山頭火の「うしろすがたのしぐれてゆくか」の逆ヴァージョンといったところか。

 こんな風に書いても、抽象的でわかりにくいかもしれない。そこでまず、6分弱の動画、「リアルとミラーワールドの交差による超越体験を創出します(IOWN x Entertainment):ダイジェスト版」をご覧いただきたい。これを見れば、リアルな世界の合わせ鏡のように広がる「ミラーワールド」の一端を垣間見ることができるだろう。

原型は「ポケモンGO」

KeongDaGreat / Shutterstock.com

 このミラーワールドは「フィジカル(現実)とデジタル(ヴァーチャル)の世界」の融合した世界を意味している。「拡張現実」(AR)によって現実がヴァーチャルなイメージ画像や動画に拡張しつつ、現実世界にそのまま投影されているような世界のことだ。そのもっとも原型となったのは、2016年7月に米国で始まった「ポケモンGO」であった。

 ミラーワールドという発想自体は、1991年にオックスフォード大学出版発行のデイヴィッド・ガランター著Mirror Worlds: or The Day Software Puts the Universe in a Shoebox . . . How It Will Happen and What It Will Meanにある。「利用者が学校、病院、都市、世界全体のような現実世界にある実在する環境を、見たり、研究したり、探求したり、理解したりすることを可能にするコンピューターシステム」こそ、ミラーワールドのイメージであった。利用者は複数のミラーワールドを動き回ることができ、現実の世界と表裏一体の体験をすることができるようになる。2015年6月には、はっきりとしたミラーワールドのイメージが発想されていた(論文The Mirror World: Preparing for Mixed-Reality Livingを参照)。

 歴史的にみると、サイバー空間は情報をデジタル化して一方的に送付するだけの初歩的な段階から、PCだけでなく、スマホなどのモバイル機器を通じた双方向の情報交換を可能とする段階を経て、参加することで相互に利益を享受できる空間である「プラットフォーム」が誕生するに至る。

 このプラットフォームの参加者は生産者であったり、消費者であったりする。生産者が消費者になったり、消費者が生産者になることもあり、参加者間の相互交流(インタラクション)を通じてプラットフォーム自体も変化する。プラットフォームに複数の参加者が集まることで、生産や消費が行われ、価値の交換や創造までもが成立する。具体的には、人工知能(AI)を利用したIoT(もののインターネット化)がリアル空間とサイバー空間を融合する「線」を張り巡らせる。それが「面」にまで広がって、現実の都市のあらゆるモノや場所が3D化され、ARを通じて三次元の世界として認知されるようになる。それがミラーワールドだ。

日本の「Society 5.0」

 日本では、「Society 5.0」なる、わかりにくい概念がある(「新型コロナ禍で考えた「ソーシャル・ディスタンシング」:社会、会社、個人の関係をどう空間的に認識するか」で紹介したようにSocietyという概念は日本においては歪められてきた)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会(Society 5.0)がそれである。政府は2016年1月に第5期科学技術基本計画を閣議決定したが、

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